生物種の名前のよりどころとなる正基準標本のことを「ホロタイプ」と呼ぶが、実はブランドにもこのホロタイプが存在する。定義することで多面的な活動に一貫性を保ちやすくなる。今回はその8項目を説明する。強力なブランドを作るためには、主な項目は全社で共有したい。

 消費者がスマートフォンなどのデバイスを通して“デジタル化”した結果、行動や認識をデータとして子細に把握できるようになり、そのデータを使って新しいマーケティング施策やサービスが提供できるようになった。ここに機会を見いだした大小のテクノロジー企業がマーケティングサポート分野へと参入し、関連する技術革新がこの傾向に拍車をかけている。

 業界のカオスマップは毎年大きく更新され続け、総合的な代理店1社に全マーケティング活動を依頼するのではなく、複数の専門代理店やプロフェッショナルと協働する状況が進みつつある。同時に、あまり本質的ではないKPI(重要業績評価指標)の数値に固執したり、せっかく導入した新技術があまり使われなかったり、ということも起きている。大いに複雑化した環境下でのブランドマネジメントには、「ブランドの定義書」と「パーセプションフロー・モデル」という2枚の設計図が重要になる。今回から3回に分けて説明していこう。

変化しないものと変化するもの

 消費者のライフスタイルはデジタル化によって大きく変化しているものの、本質的に変わらないものを忘れるべきではない。例えば認識の在り方である。三大宗教の経典は紀元前後に書かれているけれど、今でも多くの人々に影響を与え続けている。人間の認識や感情の仕組みが、さほど変化していないことの証左であろう。

 これはマーケティングやブランドマネジメントの考え方にどのような示唆をもたらすだろうか。マーケティングは属性順位の転換を通して「いいクルマ」や「いい洗剤」など「いい〇〇」を定義し、市場を創造・再創造する(関連記事「製品性能で勝るのに、あなたのブランドが1位になれないワケ」)。ブランドマネジメントは固有の大義や人格、ベネフィットなどを中心とした「意味」を構築する(関連記事「マーケティングとブランディングは同じ?」)。「いい〇〇」も「意味」も消費者の認識に立脚しているので、手段やアプローチなどの「やり方」が変化しても、根本的な役割は変化しないと考えられる。

 同時に、変化し続けるライフスタイルやテクノロジーから目を背けるべきではない。消費者のデジタル化に端を発してマーケティングの実践を取り巻く環境が急速に複雑になってきている。新しく利用可能になった手法やサービスを自ブランドの資源として使えないと、競争上の不利益にもつながる。混沌とした環境下でブランドを持続的に成長させるには、変化しないものと変化するもの両方についての理解が不可欠だ。片目で本質を凝視しつつ、片目で変化を追わなくてはならない。

マーケティング活動に必要な2枚の設計図

 多様化し複雑化した状況には、記録し図示することで対応しやすくなる。多くの関係者との迅速かつ的確な意思疎通を促すためにも、有限の資源で目的を達成し再現性を確保するためにも、マーケティング活動には設計図が必要だ。その1枚目はブランドの在るべき姿を示す「ブランドの定義書」、2枚目はマーケティングの諸活動を示す全体設計図としての「パーセプションフロー・モデル」だ。例外的に、天才が自ら指揮を執る場合には不要かもしれないが、ブランドが天才個人への属人性に縛られることになりかねない。時に人の寿命よりも長く存在するのがブランドであることを考えれば、個人への依存は長期的には望ましいものではない。

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