創業70年の老舗メーカーが生み出した固形タイプの尻用せっけん「恋するおしり ヒップケアソープ」が驚きのヒットを続ける。ボディーソープは液体タイプが全盛のなか、なぜ今、人気を集めているのか。“部位別せっけん”で斬新ヒットを連発する商品企画の謎に迫った。

「恋するおしり ヒップケアソープ」(ペリカン石鹸)
「恋するおしり ヒップケアソープ」(ペリカン石鹸)
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 液体のボディーソープが主流のなか、体の部位ごとに特化した固形せっけんを連発し、売り上げを伸ばす企業がある。創業70年の老舗、ペリカン石鹸だ。

 異色の尻用せっけん「恋するおしり ヒップケアソープ」が2018年夏、美尻ブームを受けてブレイク。尻のトレーニングとともにケア用品にも注目が集まり、若い女性を中心に指名買いが続出した。結果、同社の認知度もアップ。「いちご鼻」「二の腕のザラザラ」など、女性のピンポイントの悩みを捉えた他の商品にも人気は広がった。

■“お尻”効果で全体の販売も伸長
■“お尻”効果で全体の販売も伸長
注)データ提供:True Data。全国のドラッグストアのPOSデータによる。買物指数とは来店者100万人当たりの売上金額
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 そもそもペリカン石鹸は、化粧品大手へのOEM供給やホテルのアメニティー製造が主だった。だが販売が伸び悩み、独自ブランドの開発を本格化。「香りの良さや保湿力の高さなど従来の競争軸にはない真のニーズ」(商品開発担当の加茂しおり氏)を突き詰め、ニッチな悩みを解消する“部位専用せっけん”というアイデアにたどり着いた。

「背中用」を打ち出し、活路を開く

 12年に第1弾として背中用の「薬用石鹸 ForBack」を発売。「薄着のときに気になる背中をきれいにしたいという女性は多い」(加茂氏)ことがアイデアの発端だ。一般的なせっけんに比べて価格帯が高いため、当初はドラッグストアではなく、「PLAZA」などの雑貨店に展開した。エステに行くことなく自宅で背中をケアできる手軽さが受け、じわりと顧客を開拓。その後、ドラッグストアへ展開し、裾野が広がった。

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 マス広告を打たない同社にとって、「店頭が消費者にアピールできる最も重要な接点」(加茂氏)。そこで力を入れるのが、専用の什器だ。コンセプトをいかに「自分事」と感じてもらえるかが、売り上げに直結する。

 実は、同社の商品企画担当は、全員が美術大学出身という経歴を持つ。そのうえ、商品企画からマーケティング、販促まで、全工程を一人の社員が一貫して担う。だからこそ、商品に込めた思いが、什器などの販促物にまで“宿る”。結果、共感が生まれ、ファンの醸成に成功した。

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