デビュー前から担当していた宇多田ヒカルをはじめ、数多くのアーティストをヒットに導いてきたソニー・ミュージックレーベルズの梶望氏。2016年には、約5年半のブランクを経てリリースされた宇多田のアルバム『Fantôme(ファントーム)』がミリオンヒットを記録、17年には彼女とともに、ソニー・ミュージックレーベルズに移籍した。感性と深くリンクする商材を、届けたい人にきちんと届ける─―その成功の裏には、徹底的な「ペルソナづくり」がある。

CDをセールスに結びつけるのが難しい時代。ランキング上位を占めるのは、購入イベントのような特典を付けた作品がほとんど。そんな状況の中、16年にリリースした宇多田ヒカルのアルバム『Fantôme』は、通常盤のみでデジタルとあわせミリオンヒットを記録しました。約5年半のブランクを物ともしない、さすがの結果でしたね。
梶 宇多田が不在だった5年間で、音楽マーケットは大きく変わりました。まず、考えたのは「人は今、何に価値を認めてお金を使っているのか」です。例えばソーシャルゲームには課金しているし、音楽業界でいえば、ライブやフェスは好況です。CDも握手会などを目当てに買う。この3つの共通項は何かと考えた時に、出てきたキーワードが「時間」を買っているということ。さらにいえば、そこには「承認欲求」もある。そこで立てた仮説が、「音楽に使ってもらう時間を、価値在るものとしてきちんと認識してもらう」ことでした。
音楽マーケットのプロモーションの手法も変わってきており、現在、最も大事なのは、どうやってソーシャルに広げていくかです。
これらを踏まえて、実は『Fantôme』のときにやったことは、たった一つなんです。それは、“宇多田ヒカル”が主語になるのではなく、作品を主語にして語ってもらうようなきっかけづくりと広がりづくりをすること。これによって、作品の時間的価値が作れるのではないかと考えました。彼女自身にも、「邦楽は歌詞と声が大事だ」というコンセプトがあった。ならば、そこを徹底的にフォーカスしてみようと思ったのです。
具体的には、どんな施策を取られたのですか?
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