大成果を上げた「キットカット」の受験生応援キャンペーンをはじめ、オウンドメディア「ネスレアミューズ」を一大サイトに発展させるなど、ネスレ日本の中核を担う石橋昌文CMO。マーケティングの“発展途上国”といわれる日本で、ネスレが成果をあげられる秘密は何か。石橋氏が考えるマーケティングの本質論。

ネスレ日本の17年のオーガニックグロース(為替変動や買収売却などの影響を除いた売上額の伸び率)は、プラス2.8%。ネスレグループの先進国市場での平均が同0.7%なので、突出して高い実績です。
石橋 CEOの高岡浩三も常々発言していますが、「顧客が抱える問題をいかに解決するか」ということにネスレ日本が集中してきた結果です。人口動態や世帯構成、働き方の変化など、時代に応じて生まれる「新しい現実」に対し、顧客が抱える問題も変わります。それを発見し、解決策を考え、実行することによって付加価値を生み出す。この一連のプロセスがマーケティングの本質であり、経営そのものです。
マーケティングを単なる販促の一手段として捉える企業が多いなかで、一線を画す取り組みです。
石橋 最も重要なのは、イノベーションとリノベーションの違いをしっかり定義すること。我々が考えるイノベーションとは、顧客自身が気付いていない潜在的な問題を解決することです。既に顕在化している問題を解決するのはリノベーションにすぎず、そこからは消費者を突き動かす商品は生まれません。
例えば、02年から高岡(当時マーケティング本部長)と一緒に手掛けた「キットカット」の受験生応援キャンペーンが、私のなかで大きな成功体験になりました。「『きっと勝つとぉ!』という方言の語呂合わせで、『キットカット』を受験シーズンに親が買って子供に手渡している」という九州からの報告が発端。これを「キット、サクラサクよ。」というコピーで見える化し、粘り強く訴求したのです。
多くの人はまさかチョコレート菓子で、ターゲットの高校生が抱える3大ストレス(受験勉強、恋愛、友達関係)の1つが解決されるとは思っていませんでした。それに加え、メッセージを書き込めるようにするなど、親や親戚、先生、宿泊するホテルの従業員といった「受験生を応援したいと願う人」を巻き込むことで、「キットカット」に新たな意味(価値)を加えるイノベーションを起こせたのです。

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