定額制で使い放題の課金モデル「サブスク」があらゆるジャンルに広がっている。しかし、プロマーケターの富永朋信氏は「商品を所持・保有した喜びが通常販売モデルと比べて低く、ブランドへの愛着が生まれにくい。ブランド担当者はよく考えるべきだ」と指摘する。
みなさん、こんにちは。富永朋信です。
サブスクリプションという課金モデルがさまざまなサービスで採用され、話題になっています。「サブスク」と略されたりもするこのモデル、簡単に言えば定額制で、一旦申し込んだ後は使い放題という課金方式のことです。最近は居酒屋などの飲食店、バッグなどのブランド用品、アパレルなどにも広がっており、市民権を得てきているように思われます。
一方でスーツのAOKIが一度始めたものの程なく撤退するなど参入者の軌道修正が見られ(詳しくは『AOKIサブスク撤退の裏に4つの想定外』)、飲食店などある程度の原価がかかるモデルでは本当に使い放題にしてしまって利益は大丈夫なのか、と心配になります。
ここではサブスクの対象になる商品・サービスのブランドオーナーから見たときのリスクについて検証し、サブスクモデルがどの程度一般的に広がる可能性があるのかを考えてみたいと思います。
サブスクはブランドへの愛着が生まれにくい
まずは高級ブランドのサブスクモデルについて考察し、このモデルがブランドに与える影響について考えてみたいと思います。
サブスクモデルにおいては、さまざまなブランドの商品を取っ換え引っ換えできることがベネフィットであり、ユーザーもそういうマインドセットで、そこそこ気に入ったものを定期的に交換していく、という使い方が想定されるのではないでしょうか。この点を通常の都度販売モデルと比較すると、購入者のブランドに対する思い入れ、関与はだいぶ異なることが分かります。
通常の購入では、高級ブランド商品の単価を考えれば、ユーザーのプロファイルにもよりますが、意思決定前に相当な吟味・検討が行われるものと思われます。高級ブランドはセンスやスタイルの象徴にもなるので、ユーザーは自分の個性、目指すスタイルなどと各ブランドの世界観を比較して、慎重に購入可否を考えるわけです。そして、一旦購入に踏み切ったら使用経験とともに愛着を重ね、ブランドへの関与は深化します。
一方、サブスクはと言うと、それぞれのブランドや商品に対してそこまでの思い入れは無く、数多あるうちの1つを次々に選ぶようなプロセスになるのではないか、と思います。商品を所持・保有した喜びは通常販売モデルと比べれば低く、そのぶん関与は限定的になるでしょう。
こうして見ると、通常販売モデルではブランドはユーザーの感情移入の対象になり、ユーザーのアイデンティティーの一部、つまり欠かせない存在になっていくのに対し、サブスクモデルでは、他で代替可能なものとされていっていると言えるのではないでしょうか。サブスクモデルはブランドへのハードルを下げて簡単にトライアルを促す半面、このブランドでなければならないという理由や愛着が生まれにくいのです。
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