合成繊維の一大産地、石川県に拠点を構えるカジグループは、繊維機械の製造から糸加工、織物、編み物、縫製まで一貫して手掛ける繊維メーカーだ。日本製の合繊テキスタイルの価値を高めていくために、ブランディングに着手。BtoB企業ながら自ら生地ブランドを立ち上げた。
カジグループ 社長
カジグループは2019年5月31日、生地ブランド「KAJIF(カジフ)」を立ち上げたことを発表し、展示会も開催しました。まず、生地ブランドを立ち上げた背景から教えてください。
梶氏 カジグループで生産しているナイロンやポリエステル、キュプラなどを使用した合成繊維(以下、合繊)テキスタイルは、すべて国内工場で生産する日本製で、国内外の名だたるアパレルブランドに提供しています。世界トップクラスの薄地ナイロン織物をはじめ、ストレッチ、撥水(はっすい)、通気性に優れたものなど、機能性はもちろん、滑らかな風合いや肌触りなど質感の高さも評価されており、弊社独自のまねされにくい技術からつくられた特徴を数多く有しています。それらを武器に、輸出を中心にグループ売り上げは順調に伸びております。
一方、世界有数の北陸の合繊テキスタイルは中国や東南アジア各国で製造している安価な生地とひとくくりにされ、価格競争に巻き込まれている現実があります。加えて、今後の石油由来の製品に対する風当たりの強さや、繊維業界の斜陽産業といったイメージなど、北陸産地に限ったことではありませんが、収益が取れない、若手人材を確保できない、設備や建物の老朽化を更新できないなど、産業としての持続可能性という意味で、非常に近い将来において危機感を持っております。
こうした現状を打開していかねば、産地は確実に崩壊します。経営には余裕はありませんが、今のうちに行動を起こす必要があると考え、日本製の合繊テキスタイルの価値を正しく伝えるべく、数年前から生地ブランドを立ち上げようと計画していました。
BtoBメーカーに必要なブランド力
生地ブランドの前に、BtoC向けのトラベルグッズのブランド「TO&FRO(トゥーアンドフロー)」を立ち上げました。その理由は?
メーカーとしての理想は、アパレルブランドがカジフの生地を使用するとき、その証しとして商品にカジフのタグを付けてくれることです。そのタグを見たコンシューマーが、カジフの生地を使用していることに信頼を感じて、商品を購入してくれる──そんな流れをイメージしています。
しかし、これまでどんなに優れた生地をアパレルメーカーに提供しても、カジグループのタグを付けてもらうことはできませんでした。その理由の1つは、私たちにブランド力がないからでしょう。
そこで、タグなどを付けてもらえないのであれば自らで製品ブランドを立ち上げ、弊社の合繊テキスタイルのクオリティーの高さを製品を通じて発信していこうと考え、製品ブランディングに着手。その一環として14年にTO&FRO、16年に男性ファッションブランド「TIMONE(ティモーネ)」を立ち上げ、自社で運営しています。
TO&FROの売り上げは毎年、好調に伸びています。TO&FROがうまくいっているのは、コンサルティングをお願いした中川政七さん(中川政七商店会長)のネットワークにより、ブランドの立ち上げ当初から、百貨店などに売り場を確保できたことが大きい。それと、カジグループの誰にも負けない強みをひと言で説明できる「世界最軽量の旅行用オーガナイザー」というキラーアイテムを開発したこと。ブランドはもちろん、繊維メーカーとしての認知を高めることにつながりました。
また、全日本空輸や日本航空などと共に、トラベルグッズのコラボレーション商品なども開発したり、アパレルメーカーやデザイナーからは「こんな生地が欲しい」といったオーダーを頂いたり、新たな取引につながったりもしています。それに伴い、北陸が合繊の世界有数の産地であることや、合成繊維の機能性や品質の高さについて、徐々にですが浸透してきたようにも感じています。TO&FROのブランディングは、カジグループのCIのリニューアルを手掛けたグッドデザインカンパニーの水野学さんと共に行っています。
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