相模鉄道などの運輸業の他に不動産、流通などの事業を展開する相鉄ホールディングスが、都内への相互直通運転開始を前に、ネイビーブルーの新型車両を公開した。クリエイティブディレクターを起用し、デザイン経営を推進する林英一社長が車両の色に込めた思いを語る。
相鉄ホールディングス代表取締役社長
2019年3月28日に新型車両12000系を公開しました。この車両は、クリエイティブディレクターの水野学氏(good design company代表)、空間プロデューサーの洪恒夫氏(丹青社エグゼクティブ クリエイティブディレクター)を起用し、2013年度から進めてきた「デザインブランドアッププロジェクト」(以下、ブランドアップ)の成果でもあります。ブランドアップには、どのような狙いがあるのでしょうか。
林英一氏 00年以降、相模鉄道の輸送人員は減少傾向にあり、相鉄グループの経営は厳しい状況が続きました。こうした状況を打開する狙いから、10年度に今後10年間の成長戦略「Vision 100」を策定しました。Vision 100の軸は、「魅力ある沿線の創造によるブランドの向上」「ブランド力を活かした事業領域の拡大」の2つです。当社グループは、17年に創立100周年を迎え、19年度下期にはJR東⽇本と、22年度下期には東京急⾏電鉄と相互直通運転が始まります。そのためグループ全体として、社員の意識や発想を大きく変えていかなくてはなりません。デザインを活用することで、そうした企業姿勢の変化を外部に発信すると同時に、社内の意識改革を加速させられると考え、水野さんと洪さんにお願いすることにしました。
相鉄線沿線は、横浜駅へのアクセスに優れており、緑が豊かであるため、都市と自然をつなぐ路線として地域住民から愛されています。その一方で、都心に乗り入れていないため地域外の人にはあまり知られていません。少子高齢化が進み、私鉄各社は沿線に住む顧客を奪い合っている状況です。相鉄の輸人員は減少傾向でしたが、14年に底を打ち、ここ数年は堅調な雇用情勢を背景に上昇に転じました。しかし、競合企業に比べると伸び幅はまだ小さいと言わざるを得ません。
沿線の住民が増えれば、当然ながらグループが展開している不動産や流通、ホテルなどの事業にも追い風になります。ファミリー層を中心に沿線に人を呼び込むには、ブランド力が必要です。そのとき、デザインが大きな意味を持ちます。
水野さん、洪さんからはどのような提案があったのでしょうか。
これまでの都市と自然のイメージに、上質やエレガントという要素を加えることで、沿線としての価値がさらに高まると言われました。それを聞いて、まさにその通りだと思いました。
ネイビーブルーの車両はそうした上質さ、エレガントさの象徴ですね。
車両と駅は、沿線住民の多くが毎日のように利用するものです。これらを大きく変えることが重要と考えていました。それに対して、水野、洪の両氏から提案のあった車両の色が「YOKOHAMA NAVYBLUE(ヨコハマネイビーブルー)」です。横浜をイメージした濃紺色で、現在、9000系、20000系、そして新たに12000系にこの色を導入しました。色が表現している上質さは、お客様にも伝わっているようで「今日は、この車両に乗れて当たりだね」「この色の車両をもっと増やしてほしい」という声を頂いています。
現在は9000系が5編成、20000系が1編成ですが、12000系を含めて順次増やしていき、22年度には全車両のうち8割程度をこの⾊に変更していく予定です。
今後、相互直通運転によって、ヨコハマネイビーブルーの車両が都内に乗り入れることになります。東京にいる人たちの目に止まり、相鉄線沿線に興味を持ってもらうきっかけになるはずです。
駅は街の玄関であり、顔だと思っています。その駅がみすぼらしくては住民の皆様も残念に感じるでしょう。ですから駅のデザインも沿線のブランド力向上には欠かせません。これまでに、平沼橋駅や和田町駅など、最近では二俣川駅をリニューアルしました。これらの駅は、ヨーロッパの歴史のある駅を参考に、素材にはレンガとガラスと鉄を多く使っています。ヨーロッパの駅は、100年以上たっても、魅力的な風情を漂わせているものが少なくありません。我々も、長い時間を経て魅力が増すような駅を目指しています。
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