2019年1月1日、日本アドバタイザーズ協会 Web広告研究会の代表幹事に中村俊之氏が就任した。社会のデジタル化が進み、企業と顧客の接点はますます複雑化、高度化する一方、アドフラウド、フェイク広告などさまざまな問題も顕在化してきている。デジタルコミュニケーションは一体どこへ向かうのか。
日本アドバタイザーズ協会 Web広告研究会(以下、Web研)とはどのような団体か。
宣伝販促、広報、ブランディング、マーケティングなどのコミュニケーションにデジタルを活用するために必要な研究・情報収集を継続的に行っている団体だ。1999年4月に社団法人日本広告主協会(現日本アドバタイザーズ協会:JAA)デジタルメディア委員会内の研究会を母体として発足した。
現在、会員者数は379社(19年1月24日取材時)。JAAは広告主の団体だが、Web研は広告主だけでなく、媒体社、制作会社、システム会社、調査会社、プロモーション企画会社、シンクタンク、学術団体なども参加し、業界の枠を超えて多角的な研究活動・情報交換を行っている。広告主、広告代理店、メディアなど、企業のデジタルコミュニケーションに関わる業界全体が、垣根なく話し合える場だ。
毎月1回会員向けの各種セミナー、年2回のフォーラムを実施している。デジタル領域は変化が激しいため、効率良くキャッチアップできるよう常にタイムリーなテーマを取り上げ、実務に役立つ情報を提供している。また、関連する主要テーマごとに委員会があり、先進事例の研究、環境調査、有識者とのディスカッションも行っている。コーポレートブランド委員会、ネット・プロモーション委員会、ソーシャルメディア委員会、Big Data研究委員会、イノベーション委員会など、時代の変化に合わせて複数の幅広い委員会を設置している。
いわゆる「ウェブ広告」の概念よりもかなり広い範囲を網羅しているが、対象は広告に限定されていないのか。
ウェブ広告に限らず、ブランディングやマーケティングなどに関わるコミュニケーション全般を扱う。時代、環境の変化を反映してきた結果だ。2年前に立ち上げられたイノベーション委員会は、IoTをテーマにするなどコミュニケーション領域すら超えて、商品開発も含めたデジタル活用の研究をしている。
代表幹事として、どのような抱負を持っているか。
就任したばかりということもあり、まずはWeb研の会員、さらには業界全体が持っている現状認識、課題意識をしっかり把握し、中長期的なあるべき姿を描いた上で、今後の方針を定めたいと思っている。現在はまだその段階なので、具体的なことは決まっていない。
個人的な考えとしては、デジタルマーケティングの領域は大きく広がり、複雑化、高度化しており、その環境の変化に合わせて変わり続けていくことが求められていると感じる。かつてはウェブサイトやウェブ広告の担当者が1人ですべてを担っていた時代もあったが、現在はそうもいかない。
例えば、顧客とのコミュニケーションを考えるに当たっては、フロントエンドのみならず、バックエンドの仕組みも含めて考えなくてはならない。マーケティングに占めるデジタルの比重が増したことで、経営戦略とも深く関わるようになってきた。さまざまな部署がデジタルに関わるようになった結果、全体像としては見えにくくなっているのかもしれない。こうした環境の急速な変化に対応し、キャッチアップできる学びの場にしたい。
ただ、どれほど環境が変わったとしても、目指すべきは「最良の顧客体験」であることに変わりはない。
ウェブ広告が直面する難題
ウェブ広告を巡っては、その仕組みが複雑化するにつれて、アドフラウドやブランドセーフティー、フェイク広告などさまざまな問題が起こってきている。そうした問題にどう取り組んでいくか。
Web研は業界の垣根を越えた研究活動・情報収集の場であるため、具体的な対策を実施したり、そのための仕組みを構築したりする団体ではない。
その上でお話しするなら、まずアドフラウドやブランドセーフティーは、主に業界内部の問題である。その意味では、ビューアビリティーの保証、メディアや広告プラットフォームの品質確認を行うアドベリフィケーション機関を作るなど、業界内部で対策できるかもしれない。一方、フェイク広告やブラックSEOと言われる問題は、嘘やあくどい手段を使ってでももうけようとする一部の個人アフィリエイターの暴走なのだが、広告主、広告代理店、メディアなどの限られた企業だけではコントロールしづらい領域である。しかし、これは消費者の利益を損ねるものであると同時に、我々の提供する顧客体験にまで不信感を招かれかねない問題でもある。いずれにしても、透明性の高さ、誠実なコミュニケーションの重要性が高まっていると感じる。
Web研としては、外部の有識者とも連携しつつ、業界横断的な団体としての強みを生かして、現状や課題を業界内で共有し、何らかの対策が講じられた際はその実施に向けた情報共有の場として貢献したい。
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