富士通はAI(人工知能)事業におけるグローバル展開の戦略策定やその実行を担う会社「FUJITSU Intelligence Technology」をカナダのバンクバーに設立。2018年11月1日に事業を開始した。同社CEOの吉澤尚子・富士通執行役員常務に、AIの戦略拠点をカナダに選んだ理由などを尋ねた。

吉澤尚子(よしざわ なおこ)氏
カナダFUJITSU Intelligence Technology CEO(最高経営責任者)
1964年5月生まれ。88年5月、米カリフォルニア大学バークレー校応用数学科卒。同年8月、富士通入社。2006年6月、モバイルフォン事業本部ソフトウェア開発統括部プロジェクト部長。09年6月、同アプリプラットフォーム開発統括部長。11年10月、米国富士通研究所。15年4月、富士通パーソナルビジネス本部長代理(ユビキタスBGサービスビジネス担当)。16年4月アドバンストシステム開発本部長代理(AI担当)。17年4月、執行役員 サービスプラットフォーム部門AI基盤事業本部長(兼)デジタルサービス部門AIサービス事業本部員。18年4月、執行役員常務 デジタルサービス部門副部門長(AIサービス、イノベーティブIoT、Mobility IoT担当)。18年6月、執行役員常務 デジタルサービス部門副部門長(AIサービス担当)。19年1月、執行役員常務 テクノロジーソリューション部門副部門長(AI担当)、18年11月1日から現職

日本企業の多くが、AI活用ビジネスについて、PoC(概念実証)段階にとどまっており、なかなか実運用に進まないが、どう思うか?

ご指摘の通り、私自身もPoCでとどまっているケースが多いと肌で感じている。昨年開催した当社のイベント「Fujitsu Insight 2018」に参加した顧客にAI活用に関してアンケートを採ったが、「PoCを検討している」が約4割、「PoCを実施した」が2割弱(16%)、「構築フェーズ」が1%、「運用フェーズ」はゼロだった。

 一方で私自身、2年前からAI活用について顧客と対話してきたが、顧客も勉強し始めている。AI活用でPoCを始める際、顧客は「一緒にやる相手はスタートアップ企業で十分」と考えている。コストは安いし、言うことを聞いてくれるからだ。PoCどまりが多いのは、スタートアップ企業はSI(システムインテグレーション)までできないからである。そのことが分かっている顧客は当社に声をかけてくれる。

日本企業は、AIの研究開発もビジネス活用も世界の企業に比べて出遅れており、「AI後進国」だと思うが。

AIのビジネス活用が進まない一因は

AIの研究開発において、アカデミアは頑張っていると思う。しかし、業務をよく知っている企業がけん引しないと、AIのビジネス活用は進まない。当社にも責任があるのかもしれないが、そこが課題だ。ただ、富士通が日本の顧客にクラウドを提供しているが、そこで具体的に何をやっているのかあまりオープンにしてくれない。

 そうした経験から、海外に行くべきだと考えた。AIビジネスの市場も大きい。AI技術は、ビジネス側で引っ張っていくのが近道だ。海外企業のニーズに対して、日本でAI技術を磨いて応えていくという考え方だ。一企業当たりのAI投資は、日本に比べて海外は約20倍(17倍以上)大きい。

ディープラーニング(深層学習)技術の開発などはどう対応しているのか?

ディープラーニングはすごいブレークスルーの技術だが、それだけでは解けることは局所的になる。だからビジネスになっていかない。とりわけ画像技術については、前処理が重要になっている。いずれにしても、パートナーが必要になってくる、AIは広すぎて1社では対応できない。

 とにかく自分たちのコアのAIと他社の技術を組み合わせて最短でソリューションを作ることが必要だ。AIをいかに売れる形にしないと、市場になっていかない。

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