──星のやグーグァンのハードウエアはどうですか?

星野 湯量が豊富であることを感じていただけるような仕掛けをしています。建物全体としては、庭に運河が流れ、スパは水に浮いているような造りです。客室では、それぞれの部屋に大浴場があったら面白いと考えて、全客室に源泉かけ流しの大きな浴場を備えています。各客室にこうしたスペースと湯量を割けるのはグーグァンならではの魅力です。客室内にありながら、まるで湯小屋に行くかのように温泉を楽しめる浴場は、日本の旅館にある客室露天風呂の概念を大きく超えています。

 この浴場は、風が抜けていくように窓を両側に開口させています。露天風呂に入るのは、真冬の北海道や東北といった寒いところが最適です。台湾の人々が日本の温泉に来る理由に、そうした要素も含まれているのではないでしょうか。もともと温暖な台湾では、風を感じながら入浴することで、温泉をより楽しむことができると考えています。

2019年初夏に開業予定の「星のやグーグァン」。高速鉄道、台中駅からクルマで約90分の温泉地グーグァン(谷關)にある。客室は全50室で、全客室に半露天風呂の大浴場フロアを備える。1泊1室5万~8万円(予定)
2019年初夏に開業予定の「星のやグーグァン」。高速鉄道、台中駅からクルマで約90分の温泉地グーグァン(谷關)にある。客室は全50室で、全客室に半露天風呂の大浴場フロアを備える。1泊1室5万~8万円(予定)

──ソフトウエアはどうですか?

星野 温泉旅館の大原則は、質の高いお部屋と食事、そしてサービスを提供できるスタッフがいることです。こうした基本を高品質に提供する以外に、あまり手を広げようとは考えていません。というのも、グーグァンで私たちが望む人材を集めるのは大変なことで、スタッフを多く確保するような運営は向いていないと判断しています。少数精鋭でできる運営にとどめることが重要です。

 最近まで、海外からの訪日客に占める台湾のシェアは最も多く、私たちにとって大切なお客様です。特に2003年から04年にかけての「星野リゾート トマム」の再生は、台湾からの集客が大きな鍵を握っていました。そういった経緯もあり、台湾には既に我々のネットワークがあって、現地の旅行会社のスタッフが営業面や構想面などで、今回のプロジェクトに関わっています。そういう意味では、地元感、土地勘があります。まずは優秀な人材を集め、しっかりしたサービスを提供できる体制づくりに力を集中すれば「素晴らしい温泉リゾートが完成した」という口コミが台湾内外で広がり、それがお客様を呼ぶという良い循環が生まれると思っています。

星野リゾートはデフレの時代に成長してきた

──ここ数年、日本の観光業は好調に見えますが、東京オリンピック以降はどうなると思いますか?

星野 東京・大阪は、供給が過剰気味になる可能性があると思っています。日本国内の旅行消費は約27兆円で、そのうち20兆円以上は日本人による国内観光。地方の観光地に関して言えば、オリンピックよりも25年以降、団塊の世代が後期高齢者となって旅行頻度が落ち始めるとマイナスの影響が大きく出てくるでしょう。

 しかし、私が1991年に社長に就任して以来、星野リゾートはずっとデフレの時代に成長してきました。むしろ需要が多かったという経験をしたことがありません。需要が多く、黙っていても人々が来てくださるときは、私たちのような運営会社には活躍のしどころがなく、供給過多になったときこそ本領が発揮できると思います。

──少子高齢化が進み、働く人材を確保できない時代がやってきます。

星野 そういう時代だからこそ、私たちが活躍できる場が増えるのです。生産性を高める仕組みを導入して収益率を高くし、職場環境を整えます。そうすることでスタッフの給与レベルを上げることができます。目標は、日本の産業界全体と比べても劣らないレベルです。観光産業以外の日本の一流企業に並ぶ職場環境と給与レベルを提供できるかが勝負です。そこを目指していけば、働く人材が足りない時代でも質の高い運営を提供するという、星野リゾートらしい活躍ができるはずです。人材が足りないときこそ私たちにとってはチャンスで、オーナーが募集広告を出して人を集められるなら、運営会社に頼む必要はありません。

──台湾でやってみたいことは?

星野 台湾ではスキーができないと皆さん言いますが、玉山は標高4000m近い。グーグルマップで見てみたら、やはり雪がありますよね。年間60日スキーを目指している私自身のモチベーションとしては、絶対に行ってみたいと思っています。ただ、現地の雪山のガイドを探しているのですが、需要がないからか、なかなか見つからないのです。先に日本の山好きの方々に行っていただいて、その方のガイドで滑ってみたいですね。

(写真提供/星野リゾート)