新型コロナ感染拡大後の社会では「教育も仕事もより本質に向かい、勘が大切になる」と語る、花まる学習会代表の高濱正伸氏。「(1)経験する、(2)感じる、(3)考える、(4)言語化する、という4つの過程を繰り返すことで、人はどんどん成長していく」と言います。

 本連載は、「この人の『勘』や『感』の見方を知りたい!」と思った方にお会いし、仕事に「勘」や「感」は必要なのか、そして、どのように磨けばいいのかについて、失敗談も含めて聞いていくものです。それも、難しい書き言葉ではなく、分かりやすい話し言葉で。読者の皆さんにとって、未来に向けたヒントになれば幸いです。

 今回は、花まる学習会代表を務める高濱正伸さんにご登場いただきます。「メシが食える大人に育てる」という理念のもと、作文や読書、思考力の育成、野外体験を主軸にした「花まる学習会」や「スクールFC」を展開する一方、障害者の学習指導や青年期の引きこもりなどの相談を受けるNPO法人「子育て応援隊むぎぐみ」も運営しています。また保護者を対象とした講演会を精力的に行っていて、参加者は年間3万人を超える人気ぶり。全国を飛び回って、教育に対する思いを伝えながら、自ら実践もしているのです。

 爆発するようなエネルギーを放ちながら前へ前へと進んでいく。その情熱に気押されそうになりながらも、向かう先が利己でなく利他にあるから多くのファンがついているのだと納得しました。新型コロナウイルス問題の前後の変化も含め、高濱さんが「勘」と「感」をどう働かせているのかを聞いてみました。

花まる学習会代表の高濱正伸氏は1959年熊本県生まれ。県立熊本高校卒業後、東京大学に入学。90年同大学院修士課程修了後、93年に「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を重視した小学校低学年向け学習教室「花まる学習会」を設立。障がい児の学習指導や青年期の引きこもりなどの相談も引き受け、NPO法人「子育て応援隊むぎぐみ」として運営。算数オリンピック委員会の理事も務める
花まる学習会代表の高濱正伸氏は1959年熊本県生まれ。県立熊本高校卒業後、東京大学に入学。90年同大学院修士課程修了後、93年に「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を重視した小学校低学年向け学習教室「花まる学習会」を設立。障がい児の学習指導や青年期の引きこもりなどの相談も引き受け、NPO法人「子育て応援隊むぎぐみ」として運営。算数オリンピック委員会の理事も務める

あんなにあくせくしていた時間は何だったのか

川島 新型コロナウイルス感染拡大の前後で、何か大きく変わったことはありますか。

高濱 自分にとって無駄だったものが洗い出され、大事なものが何なのかがはっきりしたことです。「今までの仕事生活は何だったのだろう」と振り返るきっかけになりました。

川島 「何だったのだろう」ってどういうことですか。

高濱 僕は30年以上にわたって子供の教育のことを一心不乱にやってきて、1年365日のうち180日くらいは全国行脚して講演会を続けてきたんです。それが外出自粛でリモートに切り替えざるを得なくなった。そしたら1回の講演で2万人くらいの人が集まってくれる。しかも地方や海外も含めて遠方の人がいっぱい来てくれたのです。時間をかけて移動しなくても、僕のやりたいことはできる。あんなにあくせくしていた時間は何だったのだろうと反省しています。

川島 多くの人に伝えることが目的だとしたら、ライブの講演会を移動しながらやらなくても、デジタルでできたということですね。

高濱 時間にゆとりが生まれ、家族と過ごす時間も増えました。妻と21歳になる車椅子の息子と3人で、毎日のように散歩するのが良い時間になっているのです。もともと仲がいいのですが、さらに妻の機嫌が良くなって(笑)。家族のことに時間を割くと、こうも違うのかと思いました。

川島 一方で、コロナ離婚やコロナ別居といわれる現象も起きていて、仲良しの夫婦とそうでない夫婦がいる。教育を通じて無数の家族と接してきた高濱さんですが、この分岐点はどこにあるのでしょう。

高濱 子供が生まれると女性はどう猛になるのが自然で、情念の塊みたいになるのです。そのとき、夫である男性が踏み込んで距離を詰めておくか、忙しさを理由に距離をとってしまうか。そこが大きな分かれ目だと思います。

川島 よく分かります! 仕事を理由に家族と距離をとっていた夫が、テレワークで急に距離を縮めてきても、「何をいまさら」と思う妻は多いと思うんです。高濱家はその点、心配なかったのですか。

高濱 うちは子供のサポートを夫婦で協力し合ってやってきましたから。いわば逆境がプラスになったと言っていいのかもしれません。

川島 何か少しかっこ良過ぎる気もしますが(笑)、心が動きます。さてこの連載は「勘」と「感」にまつわるものですが、高濱さんはどう捉えていますか。

「これはイケる」感覚ありきなら自信が持てる

高濱 ものすごく大事なことです。よく会社で「上に通すためにはエビデンスが必要」と言ってデータ集めから始めるのは、言い訳や責任逃れのためにやっているとしか思えない。全体を捉えて大きなビジョンを描く感性的な部分は数値化できないので、僕にとって順番が逆。「これはイケる」という感覚ありきで、それを裏付けるためのデータは後です。

川島 企業にいると、「これはイケる」より「今まで通り」のほうがラクに通るという感じが強いですが。

高濱 ラクかもしれませんが、面白くはないですよね。「今まで通り」にやらされることってつまらないと思うのです。そしていつの間にか、仕事の喜びが「上司に褒められること」になってしまう。一方、「これはイケる」と自分で決めた仕事はレールを外れることになるかもしれませんが、仕事の喜びが「自信を持てること」につながると思うのです。

川島 そのあたりのこと、大企業はまだまだ鉄壁と感じることが多くて。コロナ問題によって変わりそうでしょうか。

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