コミュニケーションづくりの達人、博報堂ケトルの嶋浩一郎氏は「“置き配”や“Zoom飲み”など、新しい価値観がどんどん言語化されている。言語化されると認知が加速され、使われれば使われるほど、その行動が社会に浸透していく」という。
本連載は、「この人の『勘』や『感』の見方を知りたい!」と思った方にお会いし、仕事に「勘」や「感」は必要なのか、そして、どのように磨けばいいのかについて、失敗談も含めて聞いていくものです。それも、難しい書き言葉ではなく、分かりやすい話し言葉で。読者の皆さんにとって、未来に向けたヒントになれば幸いです。
今回は、博報堂ケトル(以下、ケトル)の嶋浩一郎さんにご登場いただきます。既存の手法にとらわれないコミュニケーションをつくる「博報堂ケトル」を率いて、“ブランド”にまつわる幅広いプロジェクトを手がける一方、カルチャー誌『ケトル』の編集長、下北沢の本屋「B&B」の運営など、多面的な活動を展開しています。
ご縁のはじまりは、あるイベントのパネルディスカッションでした。ほとばしるエネルギーを発散しながら言葉を紡ぐさまに、熱い情熱と冷静な思考を併せ持っている方だと感じました。その後、嶋さんの思考は深みを増していて、「哲学者みたい」と思うこともしばしば。そんな嶋さんが、新型コロナウイルス感染拡大の収束が見えない中、「勘」と「感」をどう働かせているのかを聞いてみました。
川島 嶋さんは今在宅ワークされているのですか(※対談は20年5月下旬に実施)。
嶋 ずっと家で仕事していて、まったく会社には行っていません。
川島 徹底していますね。不自由を感じたりしないのですか。
嶋 何もないわけではないですが、かなりのことがリモートで可能だと実感しています。ただ、ケトルの社員とミーティングしていて感じるのは、若い社員を育てていく際、デジタルを通したコミュニケーションだけでは難しいこと。アイデアの発想やクリエーションの追求といった“心のひだひだ”を伝えて導くには、現段階のデジタルでは少し不自由なところがあります。そこも含めたイノベーションは、これからどんどん進んでいくと思いますが。
川島 ご自身にとって、新型コロナウイルス問題で大きく変わったことは何でしょう。
嶋 働き方とか、家族との関係性とかいろんなことに、多くの人が向き合えたんでしょうね。いろんな考え方が変わってきましたよね。一時的な変化もあるでしょうが、価値観として今後のスタンダードになるものもあるはず。義務的に変化しなきゃいけないこともあったけど、積極的に変えていくべきものも見つかったのでは。
川島 外から変わるというより、内から変えるくらいの意気込みということでしょうか。
嶋 そうですね。それから今回の人々の気持ちの変化の中で一番大きなことは、自分にとって本当に必要なものは何で不必要なものは何か、つまりessential(不可欠な)ものとnot essentialなものの選別が一気に行われ、essentialなものを大切にする方向に舵(かじ)を切ったということです。本質的なところで選別が行われたので、not essentialを見分ける基準が厳しくなったとみています。
川島 ブランドについても同様でしょうか。
嶋 ここ数年、マーケティングの分野では、ブランドのパーパス(存在意義)が注目されてきましたが、この動きが加速するのではないでしょうか。何のために企業が存在するのかを明確にし、そこに照準を合わせた企業活動を遂行していくことが、企業のブランディングの基軸になっていく。つまり、生活者はブランドパーパスを見極めた上でファンになるかどうかを選ぶ傾向が強くなる。太い芯を備えた企業が、強みを発揮する時代になると思います。
川島 それって実は本質的なことで、世の中がまっとうな方向に向かっていくことに希望を感じます。
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