シャネル日本法人会長のリシャール・コラス氏は1986年ごろ、「自分で商品を選びたい」という顧客ニーズを満たす化粧品セルフ什器(じゅうき)を百貨店で導入。ショーケースに置くには高すぎるという課題に、「ショーケースを低くしてもらえばいい」と仰天の提案を行った。

 本連載は、「この人の『勘』や『感』の見方を知りたい!」と思った方にお会いし、仕事に「勘」や「感」は必要なのか、そして、どのように磨けばいいのかについて、失敗談も含めて聞いていくものです。それも、難しい書き言葉ではなく、分かりやすい話し言葉で。読者の皆さんにとって、未来に向けたヒントになれば幸いです。

 今回は前々回前回に続いて、シャネル日本法人会長のリシャール・コラスさんにご登場いただきます。コラスさんはシャネル日本法人の会長を務めるとともに、本社のトラベル・リテール事業の責任者として、スイスのジュネーブに拠点を置きながら日本を頻繁に訪れる多忙な日々を送っています。

 前回は1985年にシャネルに入社し、最初に担当した香水・化粧品分野でヒット商品「COCO(ココ)」を武器に百貨店で売り場を拡張していったこと。当時国産ブランドの2倍くらいしていた化粧品の価格をほぼ半分に下げるなど、シャネルが日本で今の地位を築くに至った戦略について伺いました。

 今回は、コラスさんが勘と感を働かせて、シャネルのポジションをさらに上げていったユニークなエピソードを聞きました。

右がシャネル日本法人会長のリシャール・コラス氏(左はifs未来研究所所長の川島蓉子氏)
右がシャネル日本法人会長のリシャール・コラス氏(左はifs未来研究所所長の川島蓉子氏)

「百貨店のショーケースを低くしてもらえばいい」

川島 シャネルが将来の成長を見込んだ斬新な戦略に打って出ることで一気に売り場を増やした話を伺い、機を読む大事さを痛感しました。

コラス ほかにも面白いエピソードがあります。1986年ごろ、パリの本社がシャネルのイメージを打ち出すために、化粧品の什器を作ったことがありました。ブランドの独自性を表現していてアイキャッチがあるし、販売員たちもお客様に説明しやすい。しかも、ほかのブランドはやっていない。目にした瞬間、「絶対にやるべきだ」と思ったのですが、日本側は及び腰だったのです。

川島 なぜですか。

コラス 日本の百貨店を想定したものではなかったので、それだけで高さが約50cmもあったのです。当時、日本の百貨店のショーケースは90cmほどで、その上にこれを置くとどうしても高すぎる。置いたとしても、接客のために販売員がお客様の隣に回り込まなければならない。対面販売が当たり前という百貨店の常識と相反していたからです。「恐らく百貨店がイエスと言わない」という結論でした。

川島 それでコラスさんはどうしたのですか。

コラス 諦めませんでした。これ1つで新しい売り場ができるのに、やらないのはもったいない。お客様の目線に立って、もう一度考えたのです。そして、この販促用什器の導入はお客様にとって大きなメリットにつながると確信しました。販売員に声をかけてショーケースから取り出してもらわなくても、自分で自由に手に取って試すことができるのですから。当時のお客様の商品選びは、そこまで進化しつつありました。

川島 什器のサイズという問題については?

コラス 高さの問題についても考えました。そして、「百貨店のショーケースを低くしてもらえばいい」と結論づけたのです。周囲は積極的ではありませんでしたが、思い切って百貨店に提案してみました。すると、予想以上にイエスというところが多かった。しかも、導入して反応が良いことから、大きな面積の売り場を獲得できるようになったのです。

川島 でも最初、周囲の方々は「使えない」と判断したわけですよね。

コラス 今振り返ると、私の中に違う角度から考える癖みたいなものがあったのだと思います。普通だったらできないことを「こうだったらできるのでは」「こうしたらいいのでは」と、さまざまな角度から見て結論を出す、そして思い切ってやってみる。このケースも、その結果と言えるのではないでしょうか。

川島 百貨店に入るブランドにとってのお客様は、ともするとエンドユーザーである消費者でなく、取引先である百貨店になりがち。そこをあえて、顧客の視点に立ち戻ったことが百貨店のニーズの発掘につながり、シャネルのポジションを上げたこと、よく分かりました。

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