シャネル日本法人会長のリシャール・コラス氏がシャネルに入ってすぐ手がけたのが、香水売り場を化粧品売り場に切り替えていくこと。今では当たり前となっているブラックとゴールドを主体にシャネルの世界観を表現した売り場はほんの一握りだったという。
本連載は、「この人の『勘』や『感』の見方を知りたい!」と思った方にお会いし、仕事に「勘」や「感」は必要なのか、そして、どのように磨けばいいのかについて、失敗談も含めて聞いていくものです。それも、難しい書き言葉ではなく、分かりやすい話し言葉で。読者の皆さんにとって、未来に向けたヒントになれば幸いです。
今回は前回に続いて、シャネル日本法人会長のリシャール・コラスさんにご登場いただきます。コラスさんはシャネルの日本法人の会長職を務めるとともに、本社のトラベル・リテール事業の責任者として、スイスのジュネーブに拠点を置きながら日本を頻繁に訪れる多忙な日々を送っています。
前回は、これからの空港はラグジュアリーなショッピングセンターになる――なぜなら空港は出国までのストレスから解放されることで買い物による満足を得たくなる場であり、多忙な人々が空いた時間で買い物するのに欠かせない場となってきたということ。空港で初めてブランドに触れる人が少なくないことから、シャネルにとって重要なチャネルであり、ブランドの世界観を発信する場と位置づけていること。服や靴なども含め、予想以上に売れていることなど、空港を取り巻く市場環境の変化について伺いました。
今回は、日本におけるコラスさんのクリエイティブな活動の数々と、そういった感性の芽をいつから育んできたのかについて聞いています。
川島 コラスさんの日本におけるシャネルの会長職としてのお仕事は、どんなことになるのでしょうか。
コラス 主に文化的なことや公的な役割を担っています。銀座の本社ビルに設けた「シャネル・ネクサス・ホール」の美術展やコンサートなどの活動、レストラン「ベージュ アラン・デュカス 東京」におけるイベントもみています。
川島 以前からコラスさんは文化的な発信活動にとても熱心です。シャネル・ネクサス・ホールではさまざまな展覧会やコンサートを行っていますが、すてきな企画のひとつに、若手演奏家に発表の機会を与える「シャネル・ピグマリオン・デイズ」があります。
コラス シャネルの創始者であるガブリエル・シャネルは「ピグマリオン」と呼ばれていました。ピグマリオンとは才能を信じ、支援して開花させる人のこと。カブリエルはピカソやストラヴィンスキーといった芸術家をバックアップしていたのです。シャネル・ピグマリオン・デイズはその精神に基づき、才能を備えた若手アーティストにソロコンサートの機会を与えるもの。2020年で16年目を迎えますが、ここを起点に、世界に飛び立っていったアーティストが出てきていて、喜ばしいと感じています。
川島 東京芸術大学とのコラボレーションも話題を呼びました。
コラス あれは、私が日本で会長を務めているコルベール委員会の活動の一環で行ったものです。
川島 なるほどそうでしたか。コルベール委員会は“フランス流の「美しい暮らし」を広めること”を理念に掲げた機関で、「シャネル」や「エルメス」をはじめ、そうそうたるランドや文化施設がメンバーとして名を連ねています。
コラス そのコルベール委員会が創設60周年を記念し、「60年後のラグジュアリーシーンのクリエイションはどう発展するのか」を東京芸術大学の学生に表現してもらったのです。フランスのSF小説や言語学者の言葉で表現されている2074年の世界、そこを発想の起点にして、絵画や写真といったアート作品を創作してもらいました。発表作品をパリの「FIAC(国際コンテンポラリーアートフェア)」で特別展示もしたのです。
川島 企画内容が創造的でとてもユニークですね。しかも世界に向けて発信されたわけですから、学生にとっては貴重な体験にもなったわけです。やはりコラスさんは、文化への造詣が深く、創造的な発想にあふれた方と感じます。昔からそうだったのですか。
コラス 私はもともと小説家になりたかった人間で、ビジネスよりアートへの関心が強いのです。ただ、小説家として生きていくのは難しいと思い、ジャーナリストか外交官になろうと考えていました。それが数奇なご縁で日本に来ることになり、シャネルで仕事をしています。
川島 そのあたりの経緯は、コラスさんの処女作である『遥かなる航跡』につづってあって、とても面白く読めました。必ずしもすべてがノンフィクションではないかもしれませんが(笑)。
コラス あれはノンフィクションではないと思って読んでください(笑)。
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