シャネル日本法人会長でありながら、本社のトラベル・リテール事業責任者も務めるリシャール・コラス氏。これまで変化がなかった世界の空港内免税店が10年前あたりから大きく変わってきたという。
本連載は、「この人の『勘』や『感』の見方を知りたい!」と思った方にお会いし、仕事に「勘」や「感」は必要なのか、そして、どのように磨けばいいのかについて、失敗談も含めて聞いていくものです。それも、難しい書き言葉ではなく、分かりやすい話し言葉で。読者の皆さんにとって、未来に向けたヒントになれば幸いです。
シャネル日本法人会長のリシャール・コラスさんと最初にお会いしたのは、もう20年近く前のこと。当時のコラスさんはシャネル日本法人の経営トップを務めていて、「本を書かせてほしい」という私のずうずうしい依頼に対し、「お断りする理由について、顔を合わせてお話したい」と礼節ある対応をしてくださったのです。
品位ある日本語を使い、ときにバッサリ、ときにちゃめっ気いっぱいのお話はとびきりでした。そして、経営トップと小説家という二足のわらじを履こうというコラスさんの思いに、心底びっくりしたのを覚えています。
以来、ご縁を得てきたのですが、コラスさんは作家となり、処女作『遥かなる航跡』を筆頭に執筆を続け、フランスでも高い評価を得ています。今は日本法人の会長職を務めるとともに、本社のトラベル・リテール事業の責任者として、スイスのジュネーブに拠点を置きながら、日本を頻繁に訪れる多忙な日々を送っています。
ビジネスにおいても創作活動においても成功を得ているコラスさんに、「勘」と「感」の働かせ方を聞いてみました。
川島 コラスさんは今シャネルでどのようなお仕事をされているのでしょうか。
コラス 世界各国にあるシャネルの免税店全体をみています。シャネルは機内販売をやっていないので、空港内の免税店が主な管轄領域。この販売チャネルは長い間変化がなかったのですが、10年前あたりから大きく変わってきました。
川島 どのように変わってきているのですか。
コラス 従来は主にローカル企業が空港から許可をもらい、オペレーターとして免税ショップを運営していました。それがM&A(合併・買収)などによって顔ぶれが変わり、グローバル企業が戦略的なビジネスを行うようになっているのです。そういう環境下で、シャネルの方針を実行していくため、各地域にある組織を支援するのが私の仕事です。
川島 最近の空港はレベルが随分上がってきているように感じます。
コラス ひと昔前まで、空港は飛行機に乗ることが主な目的で、免税店は付随するものという位置づけだったのですが、極端に言えばそれが逆転しています。ロレアルは空港を五大陸に続く「第六の大陸」と言っていますが、まさに未開拓の地ということです。
川島 伸びしろがあるわけですね。
コラス そこではオペレーションに加えて、ストラテジーが求められている。これから人々は、ますます世界中を移動して歩くようになっていく。そういう中で、空港がハブとして果たす役割が大きくなっていくのは自明の理で、ビジネスの場として間違いなく重要です。 一方で忘れてならないのは地球温暖化という課題の解決で、飛行機も例外ではありません。
川島 どの企業にとっても、地球環境との共生は避けて通れない課題になっています。
コラス 化石燃料に頼らず、空を移動する方法がさまざまに模索されています。電気飛行機の研究も進んでいるようですし、飛行機自体の軽量化を図ることで燃料効率を上げる開発も進んでいます。ただ私は、手段は変わるにせよ、飛行機や空港の存在自体がなくなるわけではないと思っています。
川島 逆に空港の果たす役割は広がっていきそうです。
コラス 時々ジョークで言っているのは「空港はラグジュアリーなショッピングセンターであり、ついでに飛行機に乗るところ」という話です(笑)。シンガポール、ドバイ、イスタンブールをはじめ、膨大な規模を備え、ぜいたくで上質なショッピングができる。そういう空港が増えているのです。
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