レオス・キャピタルワークスの藤野英人社長は「仕事は自分が楽しいかどうか、好きかどうかがすごく大事。日本は好き嫌いでものを言うと怒られる風潮がまだまだ根強い。『日本は好き嫌いより損得ばかりを言っている国』だと思う」と言います。

 本連載は、「この人の『勘』や『感』の見方を知りたい!」と思った方にお会いし、仕事に「勘」や「感」は必要なのか、そして、どのように磨けばいいのかについて、失敗談も含めて聞いていくものです。それも、難しい書き言葉ではなく、分かりやすい話し言葉で。読者の皆さんにとって、未来に向けたヒントになれば幸いです。

 今回は前回に続き、レオス・キャピタルワークスの社長を務める藤野英人さんにご登場いただきます。藤野さんは成長企業に投資するファンドを手掛ける一方で、投資教育に力を注ぐなど、幅広い活躍をされています。

 前回のお話では、下戸の人たちの市場を開拓することで、世の中がもっと豊かになる「ゲコノミクス」というユニークな視点を事例に、自分の感覚と時代の感覚の双方を見極めるのが大事ということ。新しい視点を実行に移すときには、自ら何か行動し、何らかの手応えを得ていること。本来的な意味でのダイバーシティーやSDGs(持続可能な開発目標)を理解していれば、新しい発想や切り口は無限に生まれてくることなど、明快で面白い話を伺いました。

 今回は、藤野さんにとって「働くことは何を意味しているのか」を少し突っ込んで聞いています。

川島 昨今、言われている働き方改革について、藤野さんはどう捉えていますか。

藤野 働くことの意味を本質的に考えた上で改革していくことが大事なのに、なかなかそうなっていない。働くことを“懲役”のように捉えている人が多いなぁと。

川島 懲役ですか、ちょっと過激です。(笑)

藤野 仕事とは罰を受ける感覚。つまり、ストレスと時間をお金に換えるイメージが強くて、減らせるならば減らしたいと捉えている人が多いのです。

川島 それはなぜでしょうか。

藤野 小さい頃、両親や学校の先生から「がんばって勉強しなさい」とよく言われましたよね。でもそれは、「いい学校に入る」ことが目的というだけ。なぜ勉強するのか、勉強の意味を真正面から説明している人が誰もいなかったのです。そして、大学を卒業する段には「がんばって就職活動しなさい」と言われるのですが、「いい会社に入る」ことが目的になっていて、なぜ働くのかという労働の意味については説明されていないんです。

川島 確かに就職を決めるときって、仕事や働く意味を知りたかったのに、誰も教えてくれませんでした。

藤野 要するにどこに所属するかという話だけ。だから多くの人の仕事観は、どこかに所属し、上の人から命令されたことをタスクとしてこなす。そこで評価を受けて出世することになっている。しかも1次元的な思考なので、逃げ場がないのです。

川島 1次元的とはどういうことですか。

藤野 一本の線のようなもので、そこから外れたらアウトということです。でも本来は3次元ですから、働く目的はいろいろあっていいし、失敗したり問題が出てきたりしても、回避できるし乗り越えることもできる。会社での出世だけを目指すのではなく、転職してもいいし、会社を作ってもいい。

川島 気になるのは、「働く時間を減らしてプライベートの充実に当てよう」といった考えや制度、システムがどんどん増えていることです。

藤野 働き方改革によって、この4~5年で何が起きたかというと、残業時間は減っているのに、仕事に対するやりがいは下がっているんです。

川島 やっぱり。

藤野 働くことの意味や意義を問うことをしてこなかった社会にあって、ただ仕事を減らすことになったら、仕事が嫌いだった人は合理化・効率化によって単位時間内の圧が強まるので息苦しくなる。一方、仕事が好きだった人は、働く時間を制約されて消化不良になる。どっちの人にもネガティブな結果になっているんです。

川島 あまり良くない方向ですね。

藤野 それで何が起きているかというと、嫌いな会社なのに辞められないという人がどんどん増えています。世界の中で日本は「自分の会社が嫌い」もしくは「ロイヤルティーを感じない」という人がものすごく多い国なんです。ある統計によると、「自分が働いている会社への信頼度」が米国は80%、中国は86%と高いのに対して日本は59%と低く、韓国(56%)と低いレベルで争っている状況です。

川島 でも米国はなぜ高いのですか。

藤野 嫌なら辞めちゃうから。嫌いな会社に居続ける理由がないのです。好きな会社に転職すればいいということです。

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