コクヨの黒田英邦社長はカンが働いたとき、その理由を探してみんなが分かるストーリーに翻訳するという。「理屈や理論から積み上げ、そこから発想するやり方もあるかもしれません。ただ僕の場合、そういうやり方だと枠組みにとらわれてしまうし、何より楽しくなくなっちゃうんです」
本連載は、「この人の『勘』や『感』の見方を知りたい!」と思った方にお会いし、仕事に「勘」や「感」は必要なのか、そして、どのように磨けばいいのかについて、失敗談も含めて聞いていくものです。それも、難しい書き言葉ではなく、分かりやすい話し言葉で。読者の皆さんにとって、未来に向けたヒントになれば幸いです。
今回はコクヨの社長を務める黒田英邦さんの最終回です。4年前、社長になられる前からご縁を得てきたのですが、最近は良い意味での自信がついてきて、ユーモアやゆとりとなって表れていている。勝手にそんな風に感じてきました。
前回までは「仕事は義務」より「仕事は楽しい」という状況を作っていくのが経営者の仕事であること。社員一人ひとりに「やってみたいこと」があり、誰かの役に立っていると実感することが大事。そのためには自分でステップを設定し、“変化するコツ”をつかむことといったお話を伺いました。最終回となる今回は勘や感の磨き方について聞いてみました(社内で“英邦さん”と呼ばれていることから、私もそう呼ばせていただきます)。
カンが働いた「理由」を探しにいく
川島 ずばり聞きますが、経営トップとしての英邦さんは、どのように勘や感を働かせているのですか。
黒田 勘や感は大事だと思ってはいますが、社長という責任ある立場を担いながら、「すべてカンで決めました!」とは、さすがに言えないです(笑)。ただ、勘や感で発想したり判断したりすることが多いのは確かで、その場合、「理由」を探しにいくようにしています。
川島 探しにいくとはどういうことですか?
黒田 例えば、これはと思う人に聞きに行ったり、社員に相談してみたり、そういう行為を通じて、みんなが分かるストーリーに“翻訳”することをわりと意識してきたし、これからもそうやっていくのが僕流と思っています。
川島 確かに社長から急に「思いついたからやることにした」と言われても、簡単に人は動きませんね。「ああ、そういうことでやるんだ」と腑(ふ)に落ちないと、一生懸命取り組む姿勢にはつながらない。だから翻訳して伝えやすくするのは、なるほどと思います。ところで、勘や感って磨けるものだと思われますか。
黒田 勘や感が働く裏には、必ずと言っていいくらい「根拠」があると思っています。分解していくと、「あのときにあの人が言ったこと」や「あそこで経験したこと」とつながっている。そういうさまざまな要素がシャッフルされ、あるとき、ポンと出てくると言ったらいいでしょうか。
川島 いきなり出てくるのではなく、自分の中に蓄積されたものが、ある視点で編集された結果だと?
黒田 そう思います。だから、僕のように感覚から始まって理由を探すのではなく、理屈や理論から積み上げ、そこから発想するやり方もあるかもしれません。ただ僕の場合、そういうやり方だと枠組みにとらわれてしまうし、何より楽しくなくなっちゃうんです。
川島 理論理屈から入っていくと「きちんと考えねば」になりがちですものね。
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