大量生産・大量消費からサステナビリティーの時代に変わりつつあるなか、ソニーはどこに向かうのか。ソニーデザイン部門トップの長谷川豊氏は「ある程度ターゲットを絞った商品を、必要とされる数量で作っていく。そこを視野に入れる必要がある」と言う。
本連載は「この人の『勘』や『感』の見方を知りたい!」と思った方にお会いし、仕事に「勘」や「感」は必要なのか。そして、どのように磨けばいいのかについて、失敗談も含めて聞いていくものです。それも、難しい書き言葉ではなく、分かりやすい話し言葉で。読者の皆さんにとって、未来に向けたヒントになれば幸いです。
今回はソニーのクリエイティブセンター長である長谷川豊さんとの対談の4回目(最終回)です。前回はソニーのデザイナーは世界中のさまざまな場にリサーチに出かけていってインプットとアウトプットを行う「デザインビジョン」活動を行っていること。1週間に一度、徹底してソニーらしさについて議論する「SHINGI(審議)」というミーティングを続けてきたこと。理論や感覚だけで終わらせず、何らかの形にしていくところにデザイナーの仕事があるといったお話を伺いました。
今回は大量生産・大量消費が行き詰まりを見せ、ものづくりに対するサステナビリティー(持続可能性)への意識が高まってきている中、ソニーのデザインがどこに向かっているのかを聞きました。
毎週半日かけて徹底的に行うディスカッション
川島 前回のお話の中で、具体的な課題についてデザイナーが徹底して議論する「SHINGI」という場があること、そういう行為の一つひとつが“ソニーらしさ”を継承していっているのだと腑(ふ)に落ちました。長年にわたって続けるって結構難しいことですから。
長谷川 1970年代から80年代にかけてのソニーは、プロダクトから宣伝まで一本の軸で通っていて、それが“らしさ”を作っていた。そういう仕組みが時代を超えて存続してきたということは、やっている当人たちがその意義を自覚し、自分の仕事に落とし込む良い場として認めているからだと思います。
川島 どのメーカーもそうあろうとしてはいるけれど、縦割り組織の役割分担の中で、一気通貫がなかなかできず、分断されることで“らしさ”が失われていっているのを山ほど見てきました(笑)。だからこれって、とてもいいことだと思ったんです。でも一方で、忙しい中、時間を割くことを面倒くさいという声はないんですか。
長谷川 毎週半日かけてやっていて、長いときは1つの案件だけで2時間くらいになってしまうこともあるのですが、出席者の熱量が変わらないんです。その事実が、現実的に機能している証かなと思っています。
川島 上司に部下がお伺いを立てるものではなく、参加者がフラットに意見を言い合える風土があるからでしょうね。その意味ではちょっと理想的過ぎるかもです(笑)。一方、他企業を見ていると、“らしさ”を貫くために、外部デザイナーにアドバイザーになってもらうという手法もありますが、クリエイティブセンターでそういうことはやっていないのですか?
長谷川 われわれが持っていないコンピタンスについては、外部の方と協業し、さまざまなことをやっています。
川島 でもそれが、外に向かって看板的になっていない。つまり“内部が主体”に徹しているところがいいですよね。企業として主体的な感じがしますから。
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