衣料大手ストライプインターナショナルの石川康晴社長は「リアルな場における体験があってこそ、ECでの購入につながっていく。リテールをどうエンターテインメント化するかは、アパレル企業が真剣に取り組んでいかなければならない課題」と断言する。

 本連載は、「この人の『勘』や『感』の見方を知りたい!」と思った方にお会いし、仕事に「勘」や「感」は必要なのか、どのように磨けばいいのかについて、成功談も失敗談も含めて聞いていくものです。それも、難しい書き言葉ではなく、分かりやすい話し言葉で。読者の皆さんにとって、未来に向けたヒントになれば幸いです。

 今回は前回に続き、ストライプインターナショナルの石川康晴社長にご登場いただきます。同社は、ファッションブランド「earth music & ecology(アースミュージック&エコロジー)」をはじめ、飲食やコスメなど幅広い事業を展開しています。

 前回は売り上げよりも利益を出すことを目標とし、廃棄率ゼロを目指していること。そのための施策として、人間とAIの需要予測の結果を比較・分析したうえで高精度の予測システムを作り、その予測に基づいて仕入高(生産金額)を小売価格ベースで350億円も減らしたことなど――ダイナミックなお話を伺いました。

 ただ一方で、ファッションは人の気持ちを動かすことが肝要な領域。今回は、ネット購入が増えていく中、リアル店舗でファッションを買う意味について聞いてみました。

ストライプインターナショナルの石川康晴社長兼CEOは1970年岡山市生まれ。岡山大学経済学部卒。京都大学大学院経営学修士(MBA)。94年、23歳で創業。95年クロスカンパニー(現ストライプインターナショナル)を設立。99年に「earth music&ecology」を立ち上げ、SPA(製造小売業)を本格開始。現在30以上のブランドを展開し、グループ売上高は1300億円を超える。公益財団法人石川文化振興財団の理事長や、現代アートの国際展覧会「岡山芸術交流」の総合プロデューサーも務め、地元岡山の文化交流・経済振興にも取り組んでいる
ストライプインターナショナルの石川康晴社長兼CEOは1970年岡山市生まれ。岡山大学経済学部卒。京都大学大学院経営学修士(MBA)。94年、23歳で創業。95年クロスカンパニー(現ストライプインターナショナル)を設立。99年に「earth music&ecology」を立ち上げ、SPA(製造小売業)を本格開始。現在30以上のブランドを展開し、グループ売上高は1300億円を超える。公益財団法人石川文化振興財団の理事長や、現代アートの国際展覧会「岡山芸術交流」の総合プロデューサーも務め、地元岡山の文化交流・経済振興にも取り組んでいる

川島 前回、お話を聞いていて思ったのは、石川さんは業界全体が抱えている課題に真っ正面から取り組んでいる姿勢でした。みんなうすうす分かってはいるのですが、実行レベルまで突き詰めている企業はそう多くありません。強烈とも言えるその意志の原動力は、どこにあるのでしょうか。

石川 今に始まったことではなくて、以前から気になっていたのです。ただ、大きなきっかけは、内閣府男女参画推進連携会議の議員をしていた関係で7年前に国連に行ったことでした。テーマは「女性のエンパワーメント」だったのですが、児童労働の問題なども含め、世界的にファッション業界が抱えている課題について、改めて考えさせられたのです。それでうちは、フェアサプライチェーンを真剣にやっていこうと決めました。

川島 フェアサプライチェーンとはどういうことですか。

石川 ストライプが考えるフェアの概念に含まれる要素は2つあります。1つ目は人権デューデリジェンス(企業が人権に関する悪影響を防止し、対処するために実施するプロセス)の観点で、児童労働・長時間労働を禁止すること。2つ目は大気や水質など、環境に配慮したものづくりをすることです。現在はプラスチックゴミを減らす、オーガニックコットンを使うといったエシカルなアプローチを行っています。

 そして何より大きいのは、無駄に生産している在庫を減らすこと。それで過剰在庫の問題を徹底的に掘り下げることにしたのです。前回触れたように、AIによる需要予測のシステムを導入し、今期の生産金額については2018年度の約2割にあたる350億円を減らしますが、どうやら第1四半期は過去最高益を達成できそうです。

川島 ゴールに向かって着々と成果が出ているのがすごいですね。その文脈で言えば、外国での低賃金の上に成り立つ生産体制でなく、国内の工場を使った生産体制へ移行するということもあるのでは? そうすれば、遠方の国に資材を運び、縫製した製品をまた輸送する燃料も省けるわけですから。

石川 当然考えています。工場はいずれ、ロボットによって24時間態勢で生産するようになっていく。そうすれば人件費が圧倒的に削減されるので、例えばお台場で作って渋谷で売ることも可能になるわけです。

リアルな場での「WOW!」な体験がECにつながる

川島 なるほど。では前回のお話の最後に出てきた、リアル店舗はエンターテインメントが必要ということ、少し具体的に教えていただけますか。

石川 例えば好きなミュージシャンのライブに行ったら「WOW!」という気持ちになりますよね。リアルな場における「WOW!」な体験があってこそ、ECでの購入につながっていくと思います。リテールをどうエンターテインメント化するかは、アパレル企業が真剣に取り組んでいかなければならない課題だと思います。一方で、過剰在庫のように社会にとっての無駄を効率的に排除していく方向もある。つまり、これから追求していかなければならないのは、合理性とエンターテインメント性なのです。

ストライプインターナショナルの代表的ブランド「earth music & ecology(アースミュージック&エコロジー)」
ストライプインターナショナルの代表的ブランド「earth music & ecology(アースミュージック&エコロジー)」

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