衣料大手ストライプインターナショナルの石川康晴社長が、ファッション業界が長年にわたって抱えてきた大量生産や値引き、廃棄問題などについて抜本的にメスを入れることを発表し、大きな注目を集めた。その真意とは?
本連載は、「この人の『勘』や『感』の見方を知りたい!」と思った方にお会いし、仕事に「勘」や「感」は必要なのか、どのように磨けばいいのかについて、成功談も失敗談も含めて聞いていくものです。それも、難しい書き言葉ではなく、分かりやすい話し言葉で。読者の皆さんにとって、未来に向けたヒントになれば幸いです。
今回はファッションブランド「earth music & ecology(アースミュージック&エコロジー)」をはじめ、幅広い事業を展開しているストライプインターナショナルの石川康晴社長に登場いただきました。
石川さんはファッション業界が長年にわたって抱えてきた大量生産による過剰在庫やそれを消化するための値引きと廃棄問題などについて抜本的にメスを入れることを2019年度の事業計画で発表し、大きな注目を集めました。また、14年にライフスタイルブランド「koe(コエ)」を立ち上げ、18年にはブランドコンセプト「new basic for new culture」を体感できるホテルを作るなど、次々と新しい試みに挑戦しています。業界の慣習や既成概念をやすやすと超えていくかに見える石川さんの勘と感を知りたいと思い、話を伺いに行きました。
川島 早速ですが、19年度の事業計画で発表した、大量生産による過剰在庫と値引き、廃棄問題に対する施策について詳しく教えてもらえますか。
石川 大量生産・大量消費をどう解決するかということについては、5年くらい前からずっと悩んできました。
川島 廃棄問題自体はファッション業界に限ったことではないのですが、流行という名のもとに新商品を次々に出していくという点で、ファッション産業は少し特殊です。同じ商品を売り続けることができないからシーズンごとにセールを行い、それでも売れ残ったものは廃棄するというサイクルが当たり前になっている。
石川 実はうちの会社は25 年前の創業以来、廃棄率が1%を超えたことがないのです。
川島 えっ、1%を超えたことがない? 昨今のアパレル企業の中には廃棄率が5割を超えるところがあると耳にしますから、すごいことです。どうやってそれを実現したんですか。
石川 単純に大幅な値引きをするということです。時間を限定して値下げするタイムセールを行い、最後は8割引きまで値下げしてきました。直近では廃棄率が0.2%にまで落ちています。
川島 でも、自分たちが一所懸命企画して作った商品が大幅に値引きされて売られることに対し、社員から反発はないのですか。
石川 もちろんあります。そんなに値引きしていいのか、ブランドを傷つけてしまうのではないかという声はあります。ただ僕は、「うちの会社が最も大事にしているのは廃棄しないこと」だと説明しています。
川島 ラグジュアリーブランドも含め、店頭では5割の値引きで止めておいて、あとはホテルなど別会場を借りて、クローズな形で大幅な値引きセールを行い、それでも売れ残ったものを廃棄するというのが、この業界のいわば常識。でもそれって、お客や社員にとって、あまり正直じゃないと思ってきました。
石川 商品を売るのは「商品を気に入って着てくださる方を見つけること」だと思っています。僕は持ち主がいない状況より、ヘビーローテーションで大切に着てもらえるほうがずっといいと考えている。だから、できるだけのことをして買ってくださる方を見つける。その結果が商品廃棄率0.2%であることに、社員はプライドを持って働いてほしいのです。
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