黒川光博社長は虎屋の17代目。「大切なのは、過去でも未来でもなく、今、この時」を持論とする経営者。学習院大学を卒業して虎屋に入社、1991年に父親から会社を引き継ぐ。全国和菓子協会名誉会長、一般社団法人日本専門店協会顧問
黒川光博社長は虎屋の17代目。「大切なのは、過去でも未来でもなく、今、この時」を持論とする経営者。学習院大学を卒業して虎屋に入社、1991年に父親から会社を引き継ぐ。全国和菓子協会名誉会長、一般社団法人日本専門店協会顧問

 本連載は、「この人の『勘』や『感』の見方を知りたい!」と思った方にお会いし、仕事に勘や感は必要なのか、そしてどのように磨けばいいのかについて、成功談も失敗談も含めて聞いていくものです。それも、難しい書き言葉ではなく、分かりやすい話し言葉で。読者の皆さんにとって、未来に向けたヒントになれば幸いです。

 今回は虎屋の社長である黒川光博さんとの対談の4回目(最終回)です。前回は、オープンしたばかりの「とらや 赤坂店」について、店づくりを通じてプロの仕事ぶりに刺激を受け、とらやもプロとしての技を磨き続けなければならないと感じたこと、従来の延長線で考えがちな「本当にお客様の立場に立っているのか」という視点について、新しい販売やサービスの方法に実験的な要素を加えたことなど、多岐にわたるお話を伺いました。

 今回は、本連載のテーマである勘と感について、黒川さんの経験と見方を聞いています。

「ひらめき」には根拠となる情報が組み込まれている

川島 最初にずばり聞きたいのですが、500年近い歴史を持つ企業の経営の中で、勘や感というものをどう見ていらっしゃいますか。

黒川 ものすごく大事だと思っています。勘や感というのか、「ひらめき」というのか、とにかく「これを今やるべき」という意識は理屈や理論ではないところで必ず出てきますし、自分がそうと感じたら実行するようにしています。

川島 例えば、どういう局面で、そういうことは起こってくるのですか。

黒川 こういうシチュエーションだから起こると決まったものではありません。ですが、例えば全面的にリニューアルした赤坂店に羊羹(ようかん)の自動販売機を置くに当たっても、そういう意識が働きました。以前、先代の社長が発案したときには「それは違います」と答えていたのですが、今回は自分の中に「今やるべき」という確かな判断があったのです。ただ、いざ実行となったら、周囲からの反対の声もありました。それで、少し強引かなと思ったのですが(笑)、自分の中の「今やるべき」を貫きました。その結果、他の店でやりたいという声も挙がっています。

川島 社長として判断を下さなくてはならないことが山のようにあると思いますが、そういうときの勘や感の根底に何があるのでしょうか。

黒川 一つひとつの判断については、降って湧いたような思いつきではないと考えています。今現在価値があると思うものが、1年先にはどれだけ価値があるか分からない。そう考えると、変えていけないものは、何もないように思うのです。

川島 何を基準に判断されるのですか。

黒川 変えるか変えないかの判断については、熟慮したから正しい結論が出るということではなく、ひらめきで決めることも大事だと思います。「これだ」と瞬間的な判断をし、間違っていないことは意外と多いものです。そういう瞬間的なひらめきは根拠となる情報にも裏付けられているので、後から振り返っても正しいことが多いように思います。