革新よりも目の前のお客様に喜んでいただくことが大事

川島 老舗というと「伝統と革新」のバランスにまつわる話が多いのですが、黒川さんは、そのあたりをどう捉えていらっしゃいますか。

黒川 「伝統と革新」という言葉は私も以前よく使っていたのですが、ここ十年ほど自分からは使わないことにしています。「革新」と言えるほど思い切ったことは果たしてどれくらいあるかと考えていたら、おこがましくてそんなことは申し上げられないと思ったからです。そんな大層なことの前に、今、目の前のお客様に喜んでいただくために何をするのかを考え、即座に実行していくことが大事です。それは必然であって、革新ではないと思うのです。

川島 必然であって、革新ではない?

黒川 瞬間瞬間の判断が大事であって、基準や枠組みにとらわれ過ぎることがあってはいけない。ただ世の中が刻々と変化しているのも確かなことで、動く世界の中で、自分がふらつかないためには、まず「自分」から行動して変わらなければならないと思っています。

川島 500年にも及ぶ歴史の中で、転換期に対して変わらなくてはならない決断がいくつもあったと思うのですが。

黒川 時代の大きな変わり目には、それなりの動きがありました。最近でいえば、東日本大震災は一つのきっかけでした。あの大災害の折り、この会社の存在意義はどこにあるのだろうということを見直さなければならないと強く思いました。今こそ毅然とした姿勢や覚悟を持つ必要があると感じたのです。未曽有の震災に遭っても、やるべきことをきちんとやっていたら覚悟はできる。そのために必要なことはどんどんやっていかなければならないと強く思いました。とともに、この10年~20年もかなり大きな変革期と言えると思います。

川島 次回は、その変革期における企業の在り方について、突っ込んだ質問をしてみたいと思います。

虎屋黒川社長「『伝統と革新』という言葉を使わなくなりました」(画像)

(写真/鈴木愛子)