日々の研さんと挑戦の先に500年の歴史がある

川島 木の部分もどうやってやったんだろうという緻密な細工があったり、ここまでダイナミックに空間を彩るのかという部分もあったりして、訪れる人の気分に大きく影響してくると感じました。

黒川 内藤さんにお願いしたことの一つに、「自然を感じたい」ということがありました。外の風が感じ取れる場を作りたいと思ったのです。その結果、3階の菓寮にはテラスを設け、窓は開放できるようになりました。現実的には乗り越えなければならない壁がいくつかあったのですが、そこは何とか突破しました。

川島 3階にある菓寮は、大きな窓越しに御所の広々とした緑の空間を望むことができて絶景です。テラスに出ると、風の爽やかさというか、緑を前にした空気のおいしさというか、都心では得難い経験ができると実感しました。

黒川 内藤さんのお考えの中には、屋根は当初、本当の瓦にするという案もあったのですが、地震を含めた天災に対する安全性を考えて、瓦の良さを生かしながら軽いものにできないかと工夫を重ね、チタンを使うことになりました。そういうプロの方々の仕事に触れながら、うちもプロであらねばと改めて思いました。「プロなんだから、菓子を作るところもお見せしたらどうか」ということで、そういう場も設けたのです。

川島 3階の菓寮の一画は、職人さんたちがお菓子を作っているさまを窓越しに見ることができます。あれがすごく面白くて、つい見入っちゃいました。「残月」を焼いている様子を見たのですが、銅板で焼いている生地は機械のように大きさも厚さも均一、熱々の焼きたてを手でじかにとって作っているのですね。

黒川 うちの職人たちも、お客様がご覧になられているということから背筋がピンと伸び、自分たちの持っている技をさらに磨きたいという意識に変わってきています。私は勝手に、お子さんがいらしたら、遊びの焼き物を作ればいいと言ったりしていまして。

川島 遊びの焼き物ですか?

黒川 例えば、亀のかたちにして焼いたら、お子さんが喜ぶじゃないですか。

川島 素人が聞くと、亀のかたちにするのは難しそうですが。

黒川 プロなんだから、それくらいのことは、当然できなくてはいけないでしょう(笑)。

川島 プロとしての職人技を磨き続けてきた先に、500年近い虎屋の歴史があるのですね。ただ、日々の研さんと挑戦こそが大事というのは、他の仕事でも言えることと、ちょっと反省です。

3階では職人たちが菓子を作っているさまを窓越しに見られる
3階では職人たちが菓子を作っているさまを窓越しに見られる