壁の漆喰は5回もやり直しました

川島 新しくなった赤坂店を訪れて、外観にも内装にも木が豊かに使われていて「これって気持ちが安らいで心地いいなあ」と改めて感じ入りました。

黒川 建築を手掛けた内藤廣さんに、自然に触れる、ほっとする、温かさを感じる、ゆっくりできる場にしてほしいと申し上げ、それを形にしていただいたのです。

川島 オープンに向け、内藤さんがつづられた文章には「簡素にして高雅」ということを念頭に置いたということで「街に大きな庇を差し掛け、空間に奥行きを与え、さらに陰影を与え、檜の板壁と黒漆喰(しっくい)の大壁の質感がそれを受け止める」と記されています。

黒川 外壁も店内もエレベーターの中にも、木をふんだんに使っていただきました。私が作る過程で感銘を受けたのは、多くの方のプロとしての仕事ぶりでした。例えば、漆喰は久住章さんという方にお願いしたのですが、この方の仕事には一種のすさまじさのようなものを感じました。

川島 久住さんといえばテレビ番組で拝見したことがありますが、その道の第一人者の方ですね。2階の売り場にある「鐶虎(かんとら)」のマークを掲げた壁も、黒々とした大きな設えで目を引きましたが、あれも漆喰なのでしょうか。

黒川 あれは黒漆喰の磨き壁というものです。ただ久住さんは、あれだけ大きな壁面を手掛けたことはないとおっしゃって、20人くらいの職人さんと一緒に取り組まれていました。それで、思うような仕上がりにならないと、なんと5回もやり直しをされたのです。

川島 えっ、5回ですか?

黒川 私なんかは「これで十分ではないか」と感じましたが、久住さんは「まだダメ」だと。さらに「やり方をもう少し研究するから、来年もう一度やらせてください」と言われていて、どこかで塗り直していただく予定です。すさまじいプロ魂を感じました。

川島 作り手の労を惜しまない仕事ぶりが人の温もりみたいなものになって、お店の心地よさとして伝わってくるのかもしれませんね。

木をふんだんに使った空間。2階奥の「鐶虎(かんとら」のマークが際立つ壁は黒漆喰(しっくい)の磨き壁
木をふんだんに使った空間。2階奥の「鐶虎(かんとら」のマークが際立つ壁は黒漆喰(しっくい)の磨き壁