人間の心に根差したものが求められていく時代

黒川 これからの時代は何が求められていくのだろうと考えたときに、大きいとか、豪華とか、そういう時代ではなくなっていると思いました。もう少し人間の心に根差したものが改めて求められているのではないかと。自然に触れる、ほっとする、温かさを感じる、ゆっくりできる、皆さんが菓子屋に求めていらっしゃることはそういうことではないかと考えたのです。それには高層ビルより低層の建物のほうがフィットすると感じましたし、建て替える目的がはっきりするという結論に行き着きました。

川島 すでに計画は進んでいたわけで、それをストップして方向転換するのは、企業としてかなり難しいことです。

黒川 その通りです。ただ、この話が持ち上がる少し前のこと、新国立競技場のザハ・ハディド氏のプランが問題になったとき、政府の主張は「1回決めたから変えられない」というものだったのですが、私は「1回決めたことでも、変更したほうが良ければ変えていいのではないか。決めたから変えられないというのはおかしい」と思い、周囲に話していたのです。その直後に、自社の中で似たような状況が起きたということで、これを否定したら、自分の言ったことと矛盾して立場がないなと(笑)。

川島 社内外への対処や反応はどうだったのですか。

黒川 設計をお願いした内藤廣先生をはじめ、建設会社や銀行の方に、言いにくいと思いながら話をしてみたら、みなさん本当に気持ち良く「そういうこともありますよね」と言ってくださったのです。でも、さすがに社内の役員会では「え?」という反応がありました(笑)。それはそうですよ。一度、社長が決めたことを変えるわけですから。そこから話し合って、低層のビルにしようとプランが固まりました。

川島 低層に変える決断の裏には、時代にフィットしているかどうかという黒川さんの「勘」や「感」が働いていたこと、よく分かりました。次回はその続きを伺いたいと思います。

虎屋社長決断の裏側 とらや赤坂店の高層ビル化計画を低層に変更(画像)

(写真/鈴木愛子)