「お店で揚げたカレーパン ついに販売開始!」。東京都や神奈川県にある一部のセブン-イレブンの店頭には、こんな張り紙が利用者の目を引く。店舗も売り込みにひときわ力を入れるその場で揚げるカレーパンが、想定の2~3倍の売り上げが続く人気商品となっている。コンビニで重要なレジ横の看板商品と位置付け、女性や若年層も取り込む呼び水としての期待をかける。

 セブン-イレブンが東京や神奈川、東海地方の一部店舗で2021年6月末から販売し始めた、店内調理のカレーパンが絶好調だ。その名も「お店で揚げたカレーパン」(税込み149円)。パンの棚にある袋入りの商品ではなく、各店舗のフライヤーで揚げ、レジの横にあるホットスナックの什器(じゅうき)に並べられる。コロナ禍で遠くのパン屋には買いに行けないが、身近なコンビニで高品質のカレーパンが食べられるとあって、人気を博しているのだ。

お店で揚げたカレーパン。モチっとした生地の中に粘性のあるルウが入っている
お店で揚げたカレーパン。モチっとした生地の中に粘性のあるルウが入っている

 都内のある店舗では8月中旬、午前10時の時点で12個のカレーパンが什器に並んでいた。午後2時に再訪したときにはすでに完売。カウンターの裏では、夕方以降の分を揚げている最中だった。セブン-イレブン・ジャパンによると、発売から1カ月半たっても売り上げが落ちず、想定の2~3倍ペースで推移しているという。

レジ横の什器で売られるカレーパン。焼き鳥と場所を分け合う(写真提供/セブン-イレブン・ジャパン)
レジ横の什器で売られるカレーパン。焼き鳥と場所を分け合う(写真提供/セブン-イレブン・ジャパン)

 セブン-イレブン・ジャパン執行役員 FF・惣菜部長の羽石奈緒氏は、「店内で揚げると女性や若年層の購入者が増え、老若男女に支持されている。若い女性がネットの評判を見てカレーパンを買いに来たという声が出てきたのは、従来には無かった反応」と話す。

 一般的にコンビニ利用者の過半は男性で、袋入りカレーパンを支持しているのも年配男性だ。女性や若年層とのタッチポイントも生み出すカレーパンに、多くの店舗が可能性を感じ取った。店頭に「お店で揚げたカレーパン」などとに大々的に張り紙を掲示し、予約専用の用紙まで用意する店もある。コロナ禍で客足が減ったコンビニ業界において、回復の起爆剤としての期待がかかる。

店頭に大々的な張り紙をする店舗もある
店頭に大々的な張り紙をする店舗もある
予約専用の用紙まである
予約専用の用紙まである

店舗のメリットも大きく、積極的に販促開始

 人気の秘密は、小腹満たし需要と絶妙な価格設定にある。テレワークの普及に伴い、1日4回以上食事を取る人が増加。サイズは小ぶりながら345キロカロリーあり、小腹満たしなどで利用する消費者に受け入れられた。あえてコロナ禍に合わせて開発したわけではなく、このタイミングで発売できたことを羽石氏は「うれしい誤算だった」と話す。

 一般的には油っぽいイメージのあるカレーパンも、揚げたてのカラッとした仕上がりだとそれほど抵抗なく食べられる。女性や若者が飛びついたのはそのためだろう。

成人男性の拳と同程度の大きさ。重さは実測で112グラムだった
成人男性の拳と同程度の大きさ。重さは実測で112グラムだった

 税込み149円という値頃感も大きい。セブン-イレブンが袋入りで販売するセブンプレミアム「コクと旨みのカレーパン」は税込み129円。20円の差であれば、少し高くても“揚げたて”を選択する人も少なくないはず。一方、本格的なパン店のカレーパンは200~400円が相場。店までの距離の優位性があったとしても、それと同じような価格帯で勝負するのは難しい。価格をどこまで下げるかでも頭を悩ませたという。

 同じくレジ横で販売するセブンカフェのコーヒーは、税込み100円からというコストパフォーマンスの良さが売りだ。「セブンカフェのように『この商品がこの値段で』という驚きを大事にし、インパクトを考えてこの価格にした。全国に2カ所ある工場で集中生産をしてコストを抑え、最適な量を最適なタイミングで出すのでロスが少ない」(羽石氏)

 店舗にとっては調理する手間はかかるものの、それ以上に恩恵が大きい。一つは匂いだ。焼き上がり時のカレーの香ばしい匂いが店内に残り、購買意欲を刺激する。レジ横の“ついで買い”を促すことで客単価の底上げにつながる。

 販売時間の制限が無いこともポイント。例えば、焼き鳥は夜に売れる商品であるため、朝から夕方までは什器が空いてしまって販売効率が落ちる。カレーパンは昼夜問わず人気があり、おでんや中華まんのような季節の影響も受けにくい。販売可能な時間が長いため、効率面でも優秀といえる。

 オペレーション負担を極力減らし、調理しやすいことも店舗に支持される一因だ。カレーパンは工場で揚げたものを冷凍した状態で届くため、基本の調理は済んでいる。店舗のフライヤーを使用し、温度と時間の設定さえ間違えなければ、どこでも同じ“2度揚げ”クオリティーになる仕組み。店舗が積極的に販促するのは、こうした利点があってのことだ。

既存のフライヤーを使い、簡単に調理できるのが強み(写真提供/セブン-イレブン・ジャパン)
既存のフライヤーを使い、簡単に調理できるのが強み(写真提供/セブン-イレブン・ジャパン)

 実際に食べてみると、外はカリッと揚がり、中はしっとりした食感。パン店の商品と比較しても遜色ない。記者はカレーパンを食べると胸焼けしがちな体質だが、一気に食べ終えても、ほとんど気にならなかったことには驚いた。ランチ用に、ペットボトルのお茶とサラダと一緒に買っても600~700円。買い合わせの新たな選択肢になり得るだろう。

着想は3年以上前、満を持して登場したカレーパン

 コンビニにとってレジ横は、購入前の消費者の目が最後に留まる場所。各社が客単価の底上げを狙う重要なスペースだ。ライバルのファミリーマートには「ファミチキ」、ローソンには「からあげクン」といった看板商品があるが、セブン-イレブンにはそれらに匹敵する商品が育っていない。14年に一部店舗でドーナツを専用什器で販売したものの、支持が得られず撤退を余儀なくされた苦い経験がある。柱となる商品の開発は急務で、「未来のフラッグシップとなるような商品を作りたかった」(羽石氏)。

 着想自体は3年以上前からあった。「万人に受ける定番商品で、店舗でおいしく調理できるもの。揚げ物は10年以上の経験があるが、チキン系が主流。新たなヒット商品という意味で考えるとカレーパンが自然と浮かんできた」と明かす。

 18年には東海エリア、19年には関西エリアでテスト販売を行っている。どちらもSNSで話題となって初動は良かったが、徐々に売り上げが下降する傾向があり、販売を休止。「生地の歯切れが悪い、油っぽいといった課題があった」と振り返る。そうした課題を改善し、内製するルウの配合にも変更を加えた。20年に神奈川県で再びテストを行うと手応えがあり。満を持して、21年6月末から全国販売に向けた一歩をスタートさせた。

 現在は生産数の限界を超えたため、生産ラインを増強するなど調整を続けている。供給が安定するまで全国への拡大計画は白紙の状態だ。レジ横のカレーパンをフックにし、今まで取りこぼしていた女性や若年層も狙うセブン-イレブンの新しい挑戦。将来的には、味のバリエーションを追加したり、カレーの有名店とコラボしたりするなどの消費者を飽きさせない工夫も、フラグシップ商品になれるかどうかの鍵になりそうだ。

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