人とのつながりを深める活動をするとコインがもらえ、それを使ってお金では買えない特別な体験を楽しめる。そんな新しいデジタル地域通貨が注目を集めている。地域のつながりの形成を目的に開発されたコミュニティー通貨アプリサービス「まちのコイン」(企画・運営はカヤック)だ。
コミュニティー通貨「まちのコイン」のサービス開始は2020年2月。人同士が触れ合いにくいコロナ禍でのスタートながら、地域住民の連携や相互扶助だけにとどまらないメリットがあると、導入する自治体が相次ぐ。
同サービスを企画・運営するのは、1998年に創業し、2014年に東証マザーズに上場したIT企業のカヤック(神奈川県鎌倉市)だ。「サイコロ給」(サイコロの出た目で毎月、手当て額を決定)などユニークな人事制度を導入し、面白法人カヤックの通称でも知られる同社。13年以降、移住者と行政を結ぶマッチングサイトを作るなど、地方創生事業も精力的に行っている。
まちのコインを考案したきっかけは、「地方創生に取り組む中で、新たな『豊さの指標』の必要性を感じたこと」と、同社代表の柳澤大輔氏。「過疎化の原因は、生産性の指標であるGDP(国内総生産)を上げようと、国と企業が経済合理性の追求に走ったことではないか。それがヒト・モノ・カネの都市への集中を生み、地方の疲弊を招いた」(柳沢氏。以下、発言者表記が無いコメントはすべて同氏)。この現状に一石を投じるため、お金ではなく、人と人とのつながりを地域の資本(価値)と捉え、それを可視化する地域通貨を発行しようと思いついた。
「人同士のつながりが増えて地域通貨の流通が盛んになるほど地域が活性化し、経済状況や環境も改善されて人々が幸せになる。地域通貨の流通量がGDPや法定通貨に代わる“幸福度の物差し”になればと考えました」
カヤックはまちのコインの原型となるアプリを18年に開発。19年11月に神奈川県の「SDGs(持続可能な開発目標)つながりポイントシステム構築業務」を受託し、まちのコインの実証実験を鎌倉市で実施。20年2月から本サービスを小田原市で開始した。21年7月現在、導入実績は鎌倉市や小田原市の他、長野県上田市、鳥取県智頭町など12エリア。通貨流通数は約570万コイン。登録利用者数1万5268人。店、団体、個人などが加盟する登録スポット数は684に上る。
絶妙なルールが「体験しなきゃ」を後押し
通貨の名称や運用方法の詳細は地域で異なるが、「ボランティアイベントに参加する」「祭りでみこしを担ぐ」「相席して知らない人と話す」など、地域や人とのつながりが増える活動をするとコインがもらえ、それを、「裏メニューを注文できる」「ほどけない靴ひもの結び方を教われる」など、通常は提供されないユニークで特別な「体験」に使えるというのが、まちのコインのコンセプトだ。
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