テレビアニメより簡単に作れて、YouTube漫画より表現が豊か。両者の長所を併せ持つYouTubeアニメに、大手出版社などが続々と参入し始めている。ヒットするにはYouTubeの特性に合わせた綿密なストーリー設計が肝。現在ヒット中の『ヤクザと目つきの悪い女刑事の話』を例に、その条件を探った。
YouTubeの動画にはバラエティーや教育、料理、ゲーム実況といった代表的なジャンルがある。その中でも、漫画が2018年ごろから注目されてきている。人気漫画を違法アップロードしていた大規模な海賊版サイトが18年4月に閉鎖され、YouTubeに流れた人も一定数いたようだ。
漫画動画といっても、初期は写真をスライド形式で動かし、ナレーションを加えた作品が主だった。その後、写真の代わりにイラストが使われるようになり、漫画のコマに声優が声をあててアニメ風にしたYouTube漫画が誕生。さらにイラストを編集して動きまで出すYouTubeアニメ、という進化を遂げてきた。
近年、様々な企業が力を入れるのが、このYouTubeアニメだ。例えば、17年から「週刊少年マガジン」で連載を開始した『東京卍リベンジャーズ』。21年4月からテレビアニメ『東京リベンジャーズ』が放送を開始し、並行してオリジナルのYouTubeアニメ「ちびりべ」も週1ペースで公開する。テレビアニメの放送後、「次の話まで1週間も待てない」というファンを離れさせないための“つなぎ”として活用している。
YouTubeアニメは、大ヒットした『鬼滅の刃』のような映像美を追求するテレビアニメと比較してコマ数を抑え、早く・簡単に・安価で制作できる。単純な漫画動画とテレビアニメとの間にある空白地帯を埋めるジャンルとして注目されているのだ。
このジャンルで最近、勢いを見せているチャンネルが『ヤクザと目つきの悪い女刑事の話』(ヤク目)だ。YouTubeアニメ専門のベンチャー企業ソラジマ(東京・目黒)が20年4月に開設した。反社会的組織「土蜘蛛(つちぐも)」の若頭である轟蛍一(とどろき・けいいち)と、そうした組織を取り締まる刑事・蟻ヶ谷雪(ありがや・ゆき)の恋模様をコミカルに描いたストーリー。お互いに好意を持ってはいるが、立場が邪魔をして素直になれない――。そんな禁断の恋を描く現代版ロミオとジュリエットのような話が20~30代男性の心をつかんでいる。
SNS上で若者の支持を集める起業家「けんすう」こと、古川健介氏が手掛ける漫画ファンでつくるメディア&コミュニティーサイト「アル」は、YouTubeの漫画動画に関するランキングを公開している。その1つ「急上昇チャンネル登録者数」で、古豪の有名チャンネルの背中を追いかけてヤク目がトップ10に入る。21年6月現在、登録者数は43万人を超え、総再生回数も1億3000万回を突破した。
同ランキングは、トップ10の半数近くをYouTubeアニメのチャンネルが占める。なぜ伸びているのか、ヤク目を例に探った。
ヤク目は、晴十ナツメグ(せいじゅう・なつめぐ)原作の漫画だ。大手出版社に原作を持ち込んだが不採用になり、作品をPRするために19年7月からTwitterで公開を始めた。初回のツイートには約2万件の「いいね」が付き、その様子を見ていたソラジマ社長の萩原鼓十郎氏は、「Twitterのフォロワー数に比べて、『いいね』や『リツイート』の数が圧倒的に多かったので気になった」と振り返る。
ソラジマは作者から許諾を得て、世界観とキャラクターを使ってアニメを独自で制作。原作とは全く別のオリジナルストーリーを作り上げる。作者はアニメに気を取られず、原作に集中しているだけで認知度を高められる。ソラジマはテレビアニメよりも初期コストを抑えたうえで、ヒットすれば多くのYouTubeの広告収入を得ることができる。互いにうまみがあるビジネスモデルだ。
公開されたヤク目の漫画を読んだところ、萩原氏が考えるYouTubeアニメでヒットする条件を備えていた。そこで20年2月、作者に声をかけた。駆け出しのベンチャー企業にとって初期コストの負担は大きい。シビアな選球眼で見定め、ヒットを確信するに至った条件とは何だったのだろうか。
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