「ライゾマティクス_マルティプレックス」展が、21年6月22日まで東京都現代美術館で開催されている。クリエーティブ集団・ライゾマティクスの16年間の軌跡を、舞台裏も含めてたどれる展覧会だ。横浜美術大学学長の宮津大輔氏に、同展覧会を手掛かりにライゾマティクスを理解するポイントを解説してもらった。

 2006年の結成から15周年を迎えるライゾマティクスの個展「ライゾマティクス_マルティプレックス」(会期:2021年6月22日まで)が、東京都現代美術館(東京・江東)で開催されています。

 ライゾマティクスを一言で説明することはなかなか難しいのですが、メディアアートと呼ばれるような作品制作にとどまらず、データに対する視覚デザインといった研究開発や、建築、広告さらにはエンターテインメント分野まで、幅広いクリエーティブ・ビジネスを行う組織と言えるでしょう。

 また、その構成メンバーは、企画からハード並びにソフトの開発、さらにはそれらのオペレーションに至るまで、一貫して取り組むことが可能なフルスタック集団です。つまり、様々な知識や技術を有しながら他の領域についても理解し、プロジェクト全体を俯瞰的かつトータルに捉え、開発・推進する能力を備えた人材によって構成されたチームであると言えます。

 彼らは国際舞台で日本の魅力をアピールする切り札として、リオ五輪2016大会閉会式での東京五輪2020へのフラッグハンドオーバーセレモニーや、15年ミラノ国際博覧会などで活躍。また、ナイキをはじめとするグローバル企業が抱える課題を、その類いまれなクリエーティビティーで解決してきています。前述のリオ五輪セレモニーでは、東京大会から正式種目となる野球や空手、スケートボードなど、33の競技をAR(拡張現実技術)によってスタジアム内に現出させたのは記憶に新しいところです。

『Rhizomatiks×ELEVENPLAY “multiplex”』(2021)
『Rhizomatiks×ELEVENPLAY “multiplex”』(2021)
「ライゾマティクス_マルティプレックス」展示風景(東京都現代美術館、2021年) photo by Muryo Homma(Rhizomatiks)

リアルとバーチャルが混然一体となった世界を体験する

 今回の展示で最も目を引くのが、作品名のみならず展覧会自体のタイトルにもなっている『Rhizomatiks×ELEVENPLAY “multiplex”』(2021)でしょう。同作は、Perfumeやリオ五輪閉会式でのフラッグハンドオーバーセレモニーの振り付けや演出を担当した、MIKIKO氏率いるダンスカンパニー「ELEVENPLAY」とのコラボレーションです。

 同作品は2つの部屋にまたがって展開されていますが、メインの展示室では白いキューブ状のロボットが縦横無尽に動き回り、それと呼応する光や映像が波紋のように広がっており、さながら無人のライブステージを見るようです。一方、前室に設置されたモニターには、5人のダンサーたちが台座のようなロボットと競演する映像が流されています。コーナーに立って2部屋を同時に見渡せば、メインのライブステージと前室の映像がシンクロしていることに気づくはずです。

 すなわち、ダンサーのしなやかな身体の動きはモーションデータ化され、無人のステージで踊るロボットや千変万化する映像、音楽と共にライブパフォーマンスを構成。その姿を自走式カメラが捉えて中継し、ダンサーたちの姿とリミックスしたものを、前室のモニターに映し出していることが分かります。そして、私たちはダンサーがいるはずのない無人のステージ上にも踊る彼女らの幻影を見るという、まさにリアルとバーチャルが混然一体となった複合的世界を体験することになるのです。

 私たちが生きている世界は、今や「ポケモンGO」のようにARで仮想世界とつながっています。また、SNS上にはフィクション的な要素を含む様々な情報が発信され、リアルとバーチャルの境界は加速度的に見えにくくなっています。

 『Rhizomatiks×ELEVENPLAY “multiplex”』は、こうした現状を強く喚起させる力を有しています。そして、AI(人工知能)が人類を超えるシンギュラリティ後には、リアルとバーチャル、そして私たち人間と機械が多面的に交差しながら共存共栄するユートピアが訪れることを示唆しているようです。

肉眼では捉えられないものをテクノロジーで可視化

『particles2021』(2021)
『particles2021』(2021)
「ライゾマティクス_マルティプレックス」展示風景(東京都現代美術館、2021年) photo by Muryo Homma(Rhizomatiks)

 後半における最大の見どころは、高さ8メートルに及ぶらせん構造レール上を走るボールをレーザーが捕捉・照射することによって、まるで空中に浮かぶ火球のような光の残像が幻影を生み出す『particles2021』(2021)と言えます。

 この作品は、11年にLED内照式のボールで制作され、第15回文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞を獲得した『particles2011』(2011)のアップデート版です。元プロサッカー選手・中田英寿が出演したレノボのCMで、記憶している読者もいるのではないでしょうか。今回は以前のレール構造特性や通信制御などに加え、新しいレーザー技術を用いることでさらにスケールアップした作品に作り変えています。

 彼らは、3D空間における絵画を念頭に置き、同作品を制作したといいます。言われてみれば、7色に輝く光の粒子は、まるでブラッシュストロークや絵具の飛沫を思わせます。ライゾマティクスの創作に対する姿勢は、既存の再制作という概念を軽々と超え、テクノロジーの進化に伴い作品がバージョンアップしていくという新たな創作フィールドに突入しているように思われます。

『R&D(リサーチ&ディベロップメント)』(2021)内の『RTK Laser Robotics Experiment』(2021)
『R&D(リサーチ&ディベロップメント)』(2021)内の『RTK Laser Robotics Experiment』(2021)
「ライゾマティクス_マルティプレックス」展示風景(東京都現代美術館、2021年) photo by Muryo Homma(Rhizomatiks)

 今回は、これまで手掛けてきた数々のコラボレーションやプロジェクトに関する展示や、試行錯誤の舞台裏、次々に生まれる技術やプラットフォームを考察している現在進行形の活動についても垣間見ることができます。

 例えば、人間の視覚では速過ぎて追い切れないフェンシングの剣先を検出し、リアルタイムのAR合成により、その軌跡をビジュアル化した『Fencing tracking and visualization system』(2019)や、サンクンガーデン内のロボットが発するレーザー光線が、視認不能な人工衛星の存在を捉える『RTK Laser Robotics Experiment』(2021)などが挙げられます。この作品は『R&D(リサーチ&ディベロップメント)』(2021)の展示の一つです。

 これらの展示からは、ライゾマティクスの作品が、テクノロジーを利用することによって肉眼では捉えられない世界を可視化していることが分かります。それは設立以来、彼らが手掛けてきた作品全体に通底する大きな特徴なのです。

『Rhizome』(2021)
『Rhizome』(2021)
「ライゾマティクス_マルティプレックス」展示風景(東京都現代美術館、2021年) photo by Muryo Homma(Rhizomatiks)

 その姿勢は彼ら自身の紹介やチームの沿革を表す場面でも一貫していました。入口のメインビジュアルは根のように中心や根源的な統一性を持たず、それでいて十全に機能する「Rhizome(リゾーム:地下茎)」を表現したグラフィカルな映像作品。これは彼らのチームの有り様を象徴しています。16年間にわたる彼らの全仕事を映像インスタレーション化した『Rhizomatiks Chronicle』(2021)は、凡庸なテキスト説明に代わり、その組織特性や活動の広がりを視覚的に認知できるよう表現されています。

 また、最近注目されている、NFT(ノンファンジブルトークン:非代替性トークン)アート作品の取引内容を可視化した展示『NFTs and CryptoArt-Experiment』(2021)も同様で、コロナ禍が引き起こした経済二極化による余剰資金の投資先として過熱する市場の様子そのものが、ダイナミックなインスタレーション作品へと変換され、まるで入札する人々の気勢までもが伝わってくるようです。

巣ごもり生活のエンタメを盛り上げるLEDライトも

『Rhizomatiks Archive&Behind the scenes』2021(部分)
『Rhizomatiks Archive&Behind the scenes』2021(部分)
「ライゾマティクス_マルティプレックス」展示風景(東京都現代美術館、2021年)。右下がセンサー内蔵シューズ photo by Muryo Homma(Rhizomatiks)

 ビジュアライズする力は、企業の広報戦略にも遺憾なく発揮されています。ナイキのスニーカー「NIKE FREE RUN+」のプロモーション「NIKE MUSIC SHOE」(2010)では、高屈曲性と柔軟性に優れた製品特性について、スニーカーを楽器にすることで見事に可視化ならぬ可聴化しています。ランニングシューズの性能を音楽に変換するという革新的なアイデアを実現するには、テクノロジーに対する並みはずれたスキルが必要であることは言うまでもありません。

 このプロジェクトの主役であるセンサー内蔵シューズは『R&D(リサーチ&ディベロップメント)』(2021-)に展示されています。ナイキとはその後も幾度となく協働しています。

 ナイキや東京五輪、そしてミラノ万博の日本パビリオンがライゾマティクスに求めていたのは、ただ特徴を分かりやすく伝える以上に、ブランド哲学や高い製品特性、“おもてなし”に込められた心、あるいは未来への希望といった漠然とした価値観や願いを可視化・訴求する力だったのではないでしょうか。

『R&D(リサーチ&ディベロップメント)』(2021)
『R&D(リサーチ&ディベロップメント)』(2021)
「ライゾマティクス_マルティプレックス」展示風景(東京都現代美術館、2021年) photo by Muryo Homma(Rhizomatiks)

 私は「優れた現代アートと、革新的なビジネスは背中合わせである」という持論を有しています。可聴音域に音響透かし技術で埋め込まれた情報を検出、配信ライブ映像と同期したLEDライトの演出で臨場感を高める『Home Sync Light』(2020)や、ささやき声を音声認識するマスク型デバイス『Messaging Mask』(2020)とARやプロジェクションとの連動は、まさにその好例と言えるでしょう。オンライン動画配信サービスが、コロナ禍によるステイホームの過ごし方としてデフォルト化しつつある現在、こうした作品・サービスが果たす役割が決して小さくはないと思っています。

 最後に同展は、リアルとオンラインによるハイブリッド開催です(オンライン会場https://mot.rhizomatiks.com/)。東京都現代美術館でしか見られない展示と、オンラインだからこそ楽しめるコンテンツが用意されています。個人的には、美術館の展示を鑑賞後に、オンライン会場を訪れることをお勧めします。

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