全国のイオン系列店の水産物売り場に、小さなキューブの形をした謎の加工食品が登場した。聞けば、魚が使われているという。一体、どんな商品なのか。

縦横約3センチメートル、高さ約1.5センチメートルの白くて四角い物体。これが、イオンが新たに送り出した「魚」だ(写真提供/イオントップバリュ)
縦横約3センチメートル、高さ約1.5センチメートルの白くて四角い物体。これが、イオンが新たに送り出した「魚」だ(写真提供/イオントップバリュ)

 2021年5月、イオングループが魚を使ったユニークな加工食品を発売。イオンリテールの販売量は計画比1.5倍と、好調なスタートを切っている。

 見た目から既に斬新と言っていいだろう。水産物売り場の冷凍コーナーに並ぶ「トップバリュ パパッとできるお魚おかず」シリーズは、来店客の興味を引く。形はほぼひと口サイズのキューブ形で、商品パッケージに12個が整然と納まっている。キューブ全体が真っ白ということもあって、単体で見れば素材が魚とは分からない。

イオンの「トップバリュ パパッとできるお魚おかず」シリーズは実勢価格386円(税込み)。キューブ12個入り。イオンやイオンスタイルなど、全国のイオン系列約1300店で販売中。賞味期限は30日(冷凍温度がマイナス5度の場合。マイナス18度なら1年半)(写真提供/イオントップバリュ)
イオンの「トップバリュ パパッとできるお魚おかず」シリーズは実勢価格386円(税込み)。キューブ12個入り。イオンやイオンスタイルなど、全国のイオン系列約1300店で販売中。賞味期限は30日(冷凍温度がマイナス5度の場合。マイナス18度なら1年半)(写真提供/イオントップバリュ)

 この商品は5種類のラインアップで、それぞれにサーモン、アジ、サバ、タラ、ブリが使われている。すべて骨抜き済みだ。開発したイオントップバリュ商品開発本部の天野雄一郎氏によると、料理の簡便性において新機軸を打ち出した商品だという。

 そのぶん、消費者に対しては丁寧な説明が求められる。売り場にはPOP広告や、調理例を紹介した動画を流すモニターを設置するようにしている。新型コロナウイルス感染拡大の影響で試食販売は実施していないうえ、「骨取りなどの下処理加工をしているため、価格は切り身に比べれば割高になる」(天野氏)。しかし販売量は、毎週、前週比15パーセントずつ伸びている状況だ。特に主要都市部での反応がいい。

店頭ではPOP広告を使って特徴を伝える(写真提供/イオンリテール)
店頭ではPOP広告を使って特徴を伝える(写真提供/イオンリテール)

 この商品はどんなものなのか、記者が食べてみた。試食したのは一番人気のサーモンと、サバ。多めの油を使って揚げ焼きしたり、煮魚風にしたりした。揚げ焼きは表面がかりっと、中はふっくらだった。日ごろ食べている魚と大差は無い印象。同じ大きさの切り身を食べたときと異なり、口の中での身の崩れ方に多少の違いがあることに気づいた程度だ。一方、魚の皮の部分も入っているためか、煮魚風は皮特有の風味も感じられた。気になる人は濃い味付けにするといいだろう。

油を多めにして焼いた。中はふっくらしていた
油を多めにして焼いた。中はふっくらしていた

魚をキューブ形にすると調理頻度が増すのはなぜか

 これまで消費者の“魚離れ”が長年続き、その背景には「切り方が分からない」「扱うのが面倒」といった調理時の不満と、「骨が気になる、残っていると危ない」といった食べるときの不満があった。後者は子供や高齢者を抱える家庭で顕著だ。

 こうした不満に対して、イオンは解決する商品を販売してきた。まず手始めに発売したのが、18年10月から展開中の「トップバリュ おさかな惣菜」シリーズだ。「骨取り赤魚の煮つけ」や「骨取りしっとり焼さばの生姜風味」などは骨抜きも含めて調理済みで、電子レンジや湯せんで温めるだけで食べられるようにした。そして翌19年には、冷凍食品「トップバリュ レンジ調理セット」を発売。「赤魚と彩り野菜のアクアパッツァ」など、電子レンジの加熱だけで料理が完結する商品をそろえた。これは、袋の中に入った魚の切り身や具材がスチーム加熱される仕組みだ。こうした2つの商品シリーズで、先述の問題は解消されたように思える。では、今回の新商品の狙いは何か。

キューブは1個15グラム(写真提供/イオントップバリュ)
キューブは1個15グラム(写真提供/イオントップバリュ)

 注目は、鍋やフライパンでの調理を前提としている点だ。「できれば手作りしたい」と考える消費者ニーズに応えるのだという。そのため、冷凍状態からそのまま使えるように工夫を凝らした。それが、見た目のユニークさに直結している「ひと口サイズのキューブ」という形状と、打ち粉をまぶし済みという料理のしやすさ。キューブ全体を覆う白い粉の正体は、打ち粉として使う、ばれいしょでん粉だ。

 ひと口大のキューブ状にしたため好きな量だけを使えるうえ、一つひとつが小さくて火が入りやすい。事前解凍は不要だ。作りたい料理に合わせて焼いたり、揚げたりなどして自由に味付けする。打ち粉済みだから調味料が絡みやすく、魚のうまみや水分を逃しにくい。加熱後も食感を保つという。

 骨抜き済みの魚をキューブ形にした加工食品は、骨の誤飲防止を目的とした介護給食向けなどの業務用であったものの、一般家庭用は初めてだ。「骨抜き済みの魚を使っているので、小さい子供を持つ家庭や介護食が必要な方に向く。ただ、忙しくて料理に時間をかけられない方などにも、利便性を感じてもらえると思う。『冷凍庫に常備して、いつでも必要な分量だけを気軽に食べられる』という魚料理の新しいスタイル提案が、どの程度受け入れてもらえるのかを冷静に見極めたい」(天野氏)

 キューブの成形法はシンプルだ。骨抜きをした魚の半身を四角い箱に敷き詰めながら重ねて、冷凍庫へ。凍らせている間は重しを載せることで、隙間なく詰まった大きな四角い固まりを作る。凍ったらそのままの状態でキューブ形に切り出し、打ち粉をまぶして完成だ。結着材で魚と魚をつなぎ合わせているわけではない。

 切り身単位や一匹丸ごとで売られる魚は、料理が主菜に限定されがちという制約がある。しかし、ひと口大のキューブ形であれば、野菜を使う副菜に数個加えるなど、メニューの幅が広がる。そうした利便性を、肉料理に偏りがちな献立を気にしている消費者に伝えられれば、広く受け入れられるだろう。

好きな量だけを使えるので、色々なメニューに活用できそうだ(写真提供/イオントップバリュ)
好きな量だけを使えるので、色々なメニューに活用できそうだ(写真提供/イオントップバリュ)
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