最近話題の「クラフトコーラ」市場に2021年6月20日、高級スーパー・成城石井がオリジナル商品で打って出る。スパイスやフルーツ果汁を巧みに組み合わせ、味わいを際立たせるためにあえて微炭酸にするなど、成城石井らしさを前面に押し出す。健康志向の高まりやノンアルコールブームで炭酸飲料への関心が高まる中、注目の新商品の実力を探った。

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 成城石井は、初のオリジナル「クラフトコーラ」を2021年6月20日に発売する。410ミリリットルのペットボトルで、税込み270円。通年販売で、全国188の店舗やオンラインショップで展開し、順次卸売先にも取り扱いを拡大していくという。

成城石井のクラフトコーラのパッケージ。ペットボトルを採用(写真提供/成城石井)
成城石井のクラフトコーラのパッケージ。ペットボトルを採用(写真提供/成城石井)
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 一般的にクラフトコーラとは、スパイスやかんきつ類などを混ぜ合わせて作るコーラのこと。大手メーカーの大量生産する商品と異なり、小規模な工場で作る個性的な味わいが売りだ。最近では専門店ができたり、21年5月にオープンしたロイヤルホールディングスの新業態「ラッキーロッキーチキン」でも取り扱いを始めたりするなど、注目度をじわじわと高めている。

 こうした流れに乗って仕掛ける成城石井。クラフトコーラを開発した商品本部の満田紗知子氏は、「スパイスとフルーツ果汁のバランスに重きを置いた」と話す。スパイスは自社で取り扱いが豊富にあり、人気商品「いちごバター」などスプレッドの開発によりフルーツの知見もある。まさに成城石井の強みを前面に押し出した一品といえる。

成城石井のクラフトコーラは、ショウガやシナモン、カルダモン、クローブなど6種のスパイス(写真下段)に、レモンやカムカム、グレープフルーツ、オレンジの4種のフルーツ果汁(同中段)、くんせい酢や砂糖、カラメルシロップ(同上段)などを混ぜた(写真提供/成城石井)
成城石井のクラフトコーラは、ショウガやシナモン、カルダモン、クローブなど6種のスパイス(写真下段)に、レモンやカムカム、グレープフルーツ、オレンジの4種のフルーツ果汁(同中段)、くんせい酢や砂糖、カラメルシロップ(同上段)などを混ぜた(写真提供/成城石井)
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 大きな特徴は3つある。1つ目は、味を安定させるためにスパイスと果汁の“つなぎ”として「くんせい酢」を使用したこと。2つ目は、スパイスや果汁の味わいを際立たせるため、最近はやりの強炭酸ではなくあえて微炭酸にしたこと。3つ目は、手に取りやすさや持ち運びやすさを考えてペットボトルにしたこと。「クラフトコーラは瓶が多く、ペットボトルは珍しい」(満田氏)

 実際にペットボトルを手に取ると、底にスパイスの破片が沈殿していた。液体にも黒い粒子が混じっており、専門店のコーラと遜色ない本格感がある。香りはカラメルを中心に、シナモンの甘さやかんきつ類の爽やかさが加わり、複雑に絡み合って不思議な魅力を醸し出す。

 飲んでみると、炭酸が弱い分、口の中でスパイスやかんきつ類の存在感が一段と高まった。一般的なコーラはシュワシュワとした刺激が瞬間的に喉を通り過ぎるのに対し、こちらはスパイスの刺激がゆっくりと喉をおおうイメージ。強炭酸を飲み慣れている人にとっては清涼感が物足りなく感じるかもしれないが、トータルで考えると微炭酸でもバランスが取れていると感じた。

もともとの液色はうっすら透明だったが、「視覚から食欲が湧きにくかったため、カラメルシロップを使用して茶色に変更した」(満田氏)
もともとの液色はうっすら透明だったが、「視覚から食欲が湧きにくかったため、カラメルシロップを使用して茶色に変更した」(満田氏)
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高単価ジンジャーエールの成功事例が最後のピースに

 開発のきっかけは、コロナ禍での食生活の変化に対応するためだった。巣ごもり時間の増加で調理をする機会が増え、香辛料市場が少しずつ拡大。そこに新商品の可能性を見いだした。得意とするスパイスとフルーツを掛け合わせた飲料を思いついたものの、当初は具体的なコンセプトまでは絞り切れなかったという。

 新商品の最後のピースになったのが炭酸水だ。仕事や家事、勉強の合間にリフレッシュしたいなどの理由で消費が拡大しており、「スパイスとフルーツを掛け合わせた炭酸水、という発想から誕生したのがクラフトコーラだった」(満田氏)。

 実際、成城石井でも炭酸水の売り上げはここ5年で好調を維持している。15年5月に発売したオリジナルのジンジャーエール(500ミリリットル、税込み162円)の売り上げが高水準で伸び、19年8月には高級路線の「生姜10倍 エクストラスパイシージンジャーエール」(410ミリリットル、税込み270円)をラインアップに追加していた。

 生姜10倍の単価は通常のジンジャーエールの2倍近いが、20年11月~21年4月までの6カ月間、ペットボトル商品の売り上げランキングでトップを維持。累計販売が65万本(21年4月時点)を超えるヒット商品となった。この成功体験から、エッジの立った高単価商品の可能性に確信を持っていた。

発売以来、飲料カテゴリーで上位をキープし続けている「生姜10倍 エクストラスパイシージンジャーエール」
発売以来、飲料カテゴリーで上位をキープし続けている「生姜10倍 エクストラスパイシージンジャーエール」
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 こうしてオリジナルのクラフトコーラを作る方向性が決まり、正式に開発をスタートしたのは1回目の緊急事態宣言が解除された20年5月のこと。スパイスと果汁のバランスを何度も試す中で、くんせい酢を入れるアイデアを思いついたのが20年末。それから数カ月で完成に至った。

 「炭酸飲料は小ロットで作ることができず、簡単には企画が通らない商材。ジンジャーエールの前例がなければ、クラフトコーラの商品化に踏み切ることはできなかった。クラフトコーラは高単価だが、良い商品であればきっと手に取ってもらえる」(満田氏)

バイヤーは、バニラアイスをのせたコーラフロートのアレンジを勧める(提供/成城石井)
バイヤーは、バニラアイスをのせたコーラフロートのアレンジを勧める(提供/成城石井)
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 既存の常識が通用しないコロナ禍にあって、次のヒットを生み出すヒントは自社製品の中に隠れているのかもしれない。消費者ニーズをくみ、自社の得意分野の知見と開発・販売ノウハウを上手に組み合わせた成城石井のクラフトコーラは、その実践例としても要注目だ。