コンビニやスーパーで、ユニークなパッケージのおかきを見たことがないだろうか。目立つ社名の表記は無いが、実は経産省が“すごい中小企業”として選んだ会社、三真が開発している。日本料理の老舗・なだ万や俳優の中尾彬など、菓子の企画でコラボした有名店・有名人は数知れず。どんな会社なのか、千葉工場を訪ねた。

コンビニやスーパーで販売される三真のおかき
コンビニやスーパーで販売される三真のおかき

 「これが一押しの新商品です、インパクトすごいでしょ」。そう言って、おかきの老舗・三真(東京・江戸川)の加藤久幸社長が取り出したのが、俳優の中尾彬とのコラボ商品「中尾彬のねじねじ」(醤油味・甘じょっぱい味の2種。2021年5月25日からローソンで先行販売・税込み216円)。中尾彬のトレードマークである“ねじねじ”のマフラーをモチーフに、おかきをツイスト状にした一品だ。

「中尾彬のねじねじ 醤油味」
「中尾彬のねじねじ 醤油味」
インタビューに答える三真の加藤久幸社長
インタビューに答える三真の加藤久幸社長

 三真の工場がある千葉県出身の著名人を探していたところ、中尾彬の存在に気がついた。思い立ったら即行動するのが三真流。「すぐに電話をかけ、ここ数年、千葉は台風などの被害があったので、千葉を元気にするお土産を作らせてもらいたいと説明すると、快く協力いただけました」(加藤社長)

 もっとも、今回のように思いつきを製品化できるのはまれだ。「電話で三真って言うと、どこの建設会社だって言われますから(笑)。調子に乗って、館山市出身のX JAPANにも電話してみたら、『事務所がアメリカの会社なんです』ということで止まってしまいました。でも、いつかコラボしたいのです」

なだ万、やまやなどコラボ多数。中小の星は、どう口説く?

 こうしたコラボ商品が三真の強みであり、販売を伸ばしている要因の一つ。企業とのコラボも手掛け、日本料理の老舗・なだ万とコラボした「なだ万 クリームチーズおかき」「なだ万 モッツァレラしっとり煎餅」(ともに税込み190円)も売れ行き好調だ。

なだ万とコラボした「なだ万 モッツァレラしっとり煎餅」
なだ万とコラボした「なだ万 モッツァレラしっとり煎餅」

 創業190年を超えるなだ万からコラボのOKをもらうのは至難の業で、夢破れて去るメーカーは数知れず。三真はなだ万に1年半も通い続け、指摘があれば味や食感を何度も見直した。最終的にはすべての料理長のお墨付きをもらって実現した大作だった。

 実は最初は、海鮮のおかきが作れないかと言われていた。「海鮮には限界があって絶対に売れないと説明すると、ムッとされました。日本を代表する和風の料亭が、洋風のチーズの商品を作るインパクトの方が強い。そこを納得してもらうのに時間をかけました」(加藤社長)。絶対に諦めない職人魂が、一流の仕事人の心を動かすのだろう。

「めんたいマヨネーズおかき」では、めんたいこの「やまや」(やまやコミュニケーションズ・福岡市)ともコラボを実現
「めんたいマヨネーズおかき」では、めんたいこの「やまや」(やまやコミュニケーションズ・福岡市)ともコラボを実現

 ユニークなコラボを展開する三真は、1940年創業の米菓の製造・販売を行う企業だ。あられやおかきの主材料であるもち米にポテトを、米菓にライ麦やえんどう豆を混ぜ込むなど、今までになかった食感や味のオリジナル商品を生み出し続けている。企画で思い浮かんだ味を再現する技術力と、年間12点以上の商品を開発するスピードは大手メーカーから一目置かれ、OEM(相手先ブランドによる生産)も数多く手掛ける。20年11月には、経済産業省の「はばたく中小企業・小規模事業者300社」に選定された。

 なぜ大手メーカーに引けを取らないのか。それは徹底的に差別化する戦略にある。奇抜な商品名やパッケージデザインは小売店のバイヤーの目を引き、コンビニはもちろん、最近では成城石井や東急ストア、3COINSなどの棚にも並ぶほど展開の広がりを見せる。

 お得に感じる大袋をやめ、小袋中心のラインアップにしたのにも理由がある。「消費者が、小さくてもおいしいものを食べるようになってきているためです。コンビニに初めて小袋を持って行った時は、『コンビニの売れ筋は大袋で200円の商品なのに、小袋で売れるわけがない』と言われましたが、それでもすごく売れたのです」(加藤社長)

スーパーの店頭に並ぶ三真のラッキーシリーズ
スーパーの店頭に並ぶ三真のラッキーシリーズ

 パッケージデザインでひときわ目を引くのが、味のあるキャラクターが描かれたラッキーシリーズ(税込み95~120円)だ。社内にデザイナーがいるのかと思いきや、キャラクターは加藤社長自らが描いていた。「作りたいおかきのアイデアが浮かんだら、先にデザインを描いて、その後で味を作る。大手とは逆の発想で開発しています。パッケージに社名を入れないのもデザインを壊さないため。三真なんて会社は知られていませんが、消費者がデザインで買ってくれることを狙っています」

加藤社長のアイデアノートには、「ラッキーコーンマヨ」のラフが描かれてる。左ページには、イヌ用おやつの「こんな時にワン! おやつだよ。」のラフも
加藤社長のアイデアノートには、「ラッキーコーンマヨ」のラフが描かれてる。左ページには、イヌ用おやつの「こんな時にワン! おやつだよ。」のラフも
イヌ用おやつの「こんな時にワン! おやつだよ。」のパッケージ
イヌ用おやつの「こんな時にワン! おやつだよ。」のパッケージ

 奇抜な商品名には、それぞれにストーリーがある。例えば「失敗マヨネーズおかき」は、サイズを変えたマヨネーズおかきを開発する際、製造上の思わぬミスから生まれた。餅の水分量を間違えて膨らみ過ぎてしまったものの、予想外のおいしさに販売が決定したのだ。パッケージには遊び心を盛り込み、ミスをした中島正登氏がかわいく謝るイラストを描いた。今では中島氏に「怒らないであげてください」といった励ましの手紙が来るなど、工場のちょっとした有名人になった。

「失敗マヨネーズおかき」のパッケージを持つ中島正登氏。パッケージの左下にはかわいく謝るイラストが入っている
「失敗マヨネーズおかき」のパッケージを持つ中島正登氏。パッケージの左下にはかわいく謝るイラストが入っている

 ネギ味のおかきである「ネギバカ」は、バカみたいにおいしいネギおかきを作りたいという発想をパッと思いついた。その場にいた女性に題字を書かせ、そのまま製品に使用したという。加藤社長を含め誰もそんなに売れると思っていなかったが、ふざけたネーミングが逆にバイヤーの琴線に触れた。セブン⁻イレブンで2017年に発売すると、店舗ごとに1週間に約11個売れる大ヒット。ここからコンビニでの取り扱いが増えていった。

コンビニでバカ売れした「ネギバカ」
コンビニでバカ売れした「ネギバカ」

社長の“暴走”を止めるバランス感覚もヒットを生む

 こうした商品を素早く企画できるのは、社長自らが動いて意思決定するためだ。関わる人が多い大手ではこうはいかない。商品の生産ラインが細かく分かれていることも有利に働き、途中で様々な素材を入れるといった試行錯誤が可能だ。「大手だと効率を求めて生産ラインを一本にしますが、うちは効率を目指していない。小回りが利くからこそ、こうした商品が作れるのです」

 消費者のニーズを捉えるため、三真では社長が自分の目で確かめる。新商品が出れば、千葉工場に併設された直営店で消費者の動きを調査。コンビニではすべての売り場を観察して売れ筋商品を調べ、暇があれば東京・渋谷で若者のはやりを追いかけている。

 こう書くとワンマン経営のように聞こえるが、社員の意見にも耳を傾ける。特に女性の意見は重要視する。女性陣が推した「ジェノベーゼOKAKI」(税込み95円)など絶対に売れないと思っていたが、コンビニで販売すると飛ぶように売れたためだ。また、パッケージに犬のお尻が描かれた「ペーターのうんこ。」は、営業部にコンプライアンス上の問題で猛反対され、泣く泣く直営店のみの販売に縮小した。社長の“暴走”を止めるパワーバランスもまた絶妙なのだ。

社員の意見が命運を分けた「ジェノベーゼOKAKI」(写真左)、「ペーターのうんこ。」(同右)
社員の意見が命運を分けた「ジェノベーゼOKAKI」(写真左)、「ペーターのうんこ。」(同右)

 トップ自らが開発をけん引し、他社とは徹底した差別化を図る――。言うはやすしだが、企業規模が大きくなればなるほど行うのは難しい。コンビニの来客数はコロナ禍で前年比1割減と落ち込み、いかに一目で商品を手に取らせ、リピート率を上げるかが重要な課題になっている。大手にはまねできないインパクトと味を兼ね備えた三真のおかきは、苦境を乗り越える答えの一つを示している。

【その他のユニーク商品】

写真右の「ラッキー明太マヨ」は、母が子供を守っているイラスト。その後に発売した「しあわせマヨネーズ」には、敵から子供を守り、二人で帰る様子を描いた。パッケージのストーリーがつながるよう、遊び心を持って作られていた
写真右の「ラッキー明太マヨ」は、母が子供を守っているイラスト。その後に発売した「しあわせマヨネーズ」には、敵から子供を守り、二人で帰る様子を描いた。パッケージのストーリーがつながるよう、遊び心を持って作られていた
餅の中に黒ごまあんやラムレーズンが入った「モスクワ大福」シリーズ。冷凍され、30~40分自然解凍してから食べる。加藤社長が商品名をなかなか思いつかなかった唯一の商品で、結局は「寒いといえばモスクワだろ!」のイメージから名付けられた
餅の中に黒ごまあんやラムレーズンが入った「モスクワ大福」シリーズ。冷凍され、30~40分自然解凍してから食べる。加藤社長が商品名をなかなか思いつかなかった唯一の商品で、結局は「寒いといえばモスクワだろ!」のイメージから名付けられた

(写真/岩田 慶=fort)