全国の様々な地域で、旅行者が好きな観光ツアーを選び、気軽に参加できるデジタル観光ツアーアプリ「スポットツアー」。既存の地域資源を生かしながら観光スポットを巡るコースを提案することで、旅行客の誘致や満足度向上につなげられるとして、地方の自治体や事業者からの注目度も高まっている。
独自開発した位置情報テクノロジーを用い、「クラウドガイド」が地域の観光スポットをナビゲーション。訪問の証しとなるデジタルスタンプが獲得できるほか、撮影した写真はツアー別に整理され、デジタルフォトブックが自動作成される。そんな多彩な機能を持つデジタル観光ツアーアプリが「SpotTour(スポットツアー)」だ。
旅行者はもちろん、観光情報を発信する側も同アプリを無料で活用できる。地域の魅力を発信し、観光客を呼び込みたい全国の自治体や事業者の熱い注目を集める「0円観光プラットフォーム」だ。
サービスを運営するスポットツアー(東京・千代田)の代表・鳥居暁氏は、富士通のシステムエンジニア、ソフトバンクグループの営業職などを経て独立。2012年、位置情報テクノロジー「タグキャスト」を開発し、同技術を使ったビジネスソリューションの提案にも着手した。「優れた位置情報技術があっても、サービスに落とし込めなければ意味がない。電気と電球をセットで発明して世界を変えたエジソンのように、タグキャストを世に広めるには、“使い道”も示さねばと考えました」。
販売員の適正配置を分析するアプリ、野球場のオーロラビジョンと連動して観客がゲームに参加できるアプリ、行った先々でデジタルスタンプを集められるアプリなどを次々に開発。中でもデジタルスタンプアプリは注目を集め、国土交通省や経済産業省のプロジェクトに採用された。店舗、観光施設、駅などを「デジタルスタンプを押せる場所」に設定し、観光客を回遊させて属性や動線データを収集。集めた知見を観光施策に生かす、社会実験も兼ねた期間限定スタンプラリーだ。
神奈川県三浦市を皮切りに、埼玉県川越市、北海道釧路市の計3カ所で国の事業として実施。この経験を通じ、鳥居氏はタグキャストと観光事業の相性の良さ、観光DX(デジタルトランスフォーメーション)の可能性や手応えを実感した。
だが、集客効果が明確にデータに表れたにもかかわらず、自ら財源を負担し、事業期間終了後もスタンプラリーを続けようという自治体は無かった。「市の職員や社会実験の推進パートナーだった博報堂の責任者と足を棒にして地域の店や施設を巡り、企画趣旨を説明し、ようやく実現にこぎ着けたイベントでした。でも自治体の財政は限られていて、観光整備にお金を回す余裕はほとんど無い。むなしさでいっぱいになりました」。
観光客誘致にコストをかけられない自治体を、どうすればサポートできるのか。思いついたのが、自治体と旅行者とをつなぐ観光アプリのプラットフォームを無料提供すること。地元の情報に詳しい自治体が観光案内役のクラウドガイドとなり、コンテンツをウェブ管理画面で作成するモデルの構築だ。
「いわば、Airbnb(エアビーアンドビー)の観光版。ホスト(貸主)が部屋の内装を工夫してゲスト(宿泊者)にアピールするように、自治体が地域の魅力を盛り込んだ写真や説明文を用意する形式です。これなら小さな町や地域でも、ほとんど費用をかけずに観光情報を発信できると考えました」。
東京メトロと沿線の観光スポット巡りで協業スタート
国とのプロジェクト用に作ったアプリに改良を重ね、現在のスポットツアーとほぼ同機能のアプリを完成。まずは腕試しと、東京メトロ主催のオープンイノベーションプログラム「Tokyo Metro ACCELERATOR」に応募すると、その新規性が高く評価され、同社が実施する観光企画「駅から始まるさんぽ道」での協業が決まった。
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