2021年で発売40周年を迎える、赤城乳業のアイス「ガリガリ君」。長く愛される定番のソーダ味の他に、150種類を超える味が誕生してきた。数々の成功の裏には、時に失敗もある。赤城乳業にこれまでの売り上げ「ベスト5」「ワースト5」を聞いた上で、その理由を分析してもらった。
赤城乳業(埼玉県深谷市)の看板アイス「ガリガリ君」が、2021年で発売40周年を迎えた。1981年に小学生をターゲットとして誕生し、当初はソーダ、コーラ、グレープフルーツの3種類で展開していた。2006年には、大人向けに単価を上げたシリーズ「ガリガリ君リッチ」のミルクミルク(販売終了)を発売。15年には、大人の女性向けにジェラートを意識して果汁濃度を上げたシリーズ「大人なガリガリ君」のグレープフルーツ(販売終了)を発売し、顧客層を広げてきた。
年間に発売するのは多くて20種類。ソーダのように毎年再販する定番の味もあれば、2~3カ月たっても売れ残り、ラインアップから外れる味もある。これまで世に出た数は150種類を超えるという。開発マーケティング本部の岡本秀幸氏は、「お客さまの声に応えるうちに増えてしまった」と話す。味の種類が増えるとともに年間の売上本数も伸長し、12年には初めて年間4億本を突破。現在まで毎年4億本超えを維持し、21年は5億本の大台突破を目指している。
40年の歴史の中で実に多様な味に挑戦し、成功と失敗とを繰り返してきたガリガリ君。その経験を振り返りつつ、岡本氏に売り上げ「ベスト5」と「ワースト5」を挙げてもらい、そうなった理由を分析してもらった。「ベストは割と想像がつきやすいかもしれませんが、ワーストを話すのは初めてかも」と岡本氏。次のページのランキングは、ぜひ予想した上で読み進めてほしい。
やはり1位はソーダ。2位は発売当初売れなかったあの味
売り上げベスト5
●第5位 ガリガリ君 九州みかん
17年3月発売、70円(税別、以下同)。16年4月に発生した熊本地震の復興支援を目的に誕生し、売り上げの一部を寄付している。パッケージに熊本県のPRキャラクター「くまモン」が使われ、発売以降、毎年販売される人気商品になった。「販売期間は当初、年に2~3カ月間でしたが、今は夏場を通して置かれるようになりました。みかんは嫌いな人が少ないですし、くまモンのパッケージが目を引くのだと思います」(岡本氏、以下同)。
●第4位 ガリガリ君リッチ チョコミント
18年5月発売、130円。ミント味のアイスキャンディーの中に、チョコチップ入りのミント味のかき氷が入っている。「18年以降、毎年発売される人気商品です。コーラやグレープフルーツは通年販売をしていて人気があるように思えるかもしれませんが、実は販路が限定的なんです。5位の九州みかんとはいい勝負ですが、単価が高いチョコミントが4位となりました」。
●第3位 ガリガリ君リッチ コーンポタージュ(販売終了)
12年9月発売、100円。変わった味がTwitterで話題になり、コンビニに納品した商品が3日間ですべて売り切れる異常事態となった。13年3月に再販されたが、「今だと考えられないくらいの数を用意したものの、それでも売り切れるほどの人気でした。過去最高の売上本数である約4億7000万本を記録したのは、この味の影響です」。
●第2位 ガリガリ君 梨
02年発売、70円。「かき氷の粒をより細かくする技術に着目したタイミングで、シャキシャキした食感に合う味として梨に決まりました」。実は、発売当初はそこまで売れず、次に再販されたのは08年。10年の記録的な猛暑がきっかけとなり、ほぼ毎年ラインアップされる人気味となった。
●第1位 ガリガリ君 ソーダ
1981年発売、70円。かき氷が崩れないように外側をアイスキャンディーでコーティングし、スティックを刺して持ちやすくしたことでヒットした。「他を寄せ付けない圧倒的な人気。近年は、サッカー日本代表やポケモンとコラボした限定パッケージも発売されています」。
失敗を生かして生まれたのがチョコミントだった
売り上げワースト5
●第5位 ガリガリ君 グレープミント(販売終了)
01年発売、60円。「当時の売上本数が現在の3分の1であることを差し引いても、あまり売れませんでした。味として意外性を狙いましたが、グレープとミントの組み合わせが受け入れられなかったようです」。
●第4位 ガリガリ君リッチ グリーンスムージー(販売終了)
17年3月発売、130円。健康を意識したスムージーブームに合わせ、10種類の野菜と3種のフルーツ、さらに食物繊維が豊富なチアシードも加えた。「健康ブームに乗ったものの、見事に失敗しました……。ガリガリ君に楽しさや面白さを求める人と、グリーンスムージーを飲む人は違っていたんだなと思います。朝の品川駅で『朝アイス』という無理なテーマを作って、1000本を無料配布するイベントも開催しました」。
●第3位 ガリガリ君リッチ たまご焼き(販売終了)
19年10月発売、140円。たまご焼き味のかき氷の中に、味付きのたまご焼きを入れ、粉末のしょうゆで味付けした。「もともと、たまご焼きが嫌いな人はほとんどいないはず、日本の東西でたまご焼きの味が変わるのも面白いのではないか、という考えからスタートしました。開発段階からアレンジレシピが出ることを想定しており、狙い通り、SNSではしょうゆを追加したり、大根おろしを添えたりする人が続出しました。話題になっても販売がさっぱりだったのは、そもそもアイスにしょうゆを入れるのが間違っていたような気がします。なぜ売れなかったのかアンケートを取ったところ、『味が想像できない』という回答が多かったことにガッカリしました」。
●第2位 ガリガリ君リッチ サンキューベリーマッチャ(販売終了)
11年9月発売、100円。抹茶かき氷を、練乳入りのアイスキャンディーでコーティングした。商品名は、「サンキューベリーマッチ」と「抹茶」を掛け合わせたダジャレから誕生。ダジャレを使ったのは岡本氏が知る限りこの商品だけだが、売り上げもスベってしまった格好だ。実は19年2月に発売した「ガリガリ君リッチ 抹茶あずき」も苦戦しており、ガリガリ君と抹茶の食い合わせがよくないことが分かっている。「抹茶のかき氷は夏場に売れるので、秋冬の発売タイミングがよくなかったのでは。ガリガリ君の新味を買う層と、抹茶が好きな層とがズレていたのではないかとも考えています」。
●第1位 ガリガリ君リッチ ナポリタン(販売終了)
14年3月、120円。トマトゼリーが入ったナポリタン味のかき氷を、ナポリタン味のアイスキャンディーでコーティングした。「ナポリタンの失敗は桁違いでした(約3億円の損失)。12年に発売したコーンポタージュ味の大成功を受けて大量生産したものの、計画通りにいかなかったためです。よく考えたら、ナポリタンの失敗を3位のたまご焼きに生かせておらず、またおかず系を作ってますね(笑)。失敗が悪いというわけではなく、ネタとして広告になるため、いいチャレンジだったと思います」。
ワースト5を振り返り、「トレンドを狙って開発するものの、何が売れるかは予想がつきません。事前にネットが盛り上がっても、売れないものもあるんです」と岡本氏。大失敗のリスクを減らすため、「ナポリタンやグリーンスムージーの失敗を生かし、自分たちが作りたい味ではなく、市場動向やユーザー視点の分析を重視するようになりました」。
実際にグリーンスムージーを購入した消費者を分析したところ、新規客が極端に少なかったという。新味の開発には、ガリガリ君を買っていない層にも目を向けてもらう目的があるが、これでは手間をかけてまで新味を出す意味が薄れてしまう。そこで新味を決定するフローを変更し、「消費者の間口の広さを考え、アイス市場でウケる味のトレンドを調べた中から、ガリガリ君でまだ発売していない味を選ぶようにしました。こうして誕生したのがベスト4位のチョコミントです」(岡本氏)。
新しいフローを生かし、21年1月に「ガリガリ君ジンジャーエール」と「ガリガリ君レモンスカッシュ」、2月に「大人なガリガリ君キウイ」と立て続けに新味を投入した。全国小売店の販売データを集計する日経POS情報で、2月のガリガリ君シリーズの販売金額を調べると、全体の約4割が「ソーダ」で、「キウイ」、「レモンスカッシュ/ジンジャーエール」がそれぞれ1割を占めていた。しかし、新味はソーダと比べて置いてある店舗数が格段に少ない。商品がある店舗に絞った「出現店千人当り金額」でみると、どちらもソーダを上回ってヒットの兆しを見せている。
21年3月後半からは、40周年を記念したスタンプが押された限定パッケージのソーダが、全国で出回る予定だ。さらに5月には、40周年を記念したガリガリ君の新味発売を控える。15年ぶりに消費者アンケートを取り、1位になった味を発売する計画。赤城乳業の公式Twitterでは、色が付いていないパッケージデザインと、メインカラーがピンク色であることがすでに発表されている。選ばれた味は「圧倒的な票数だった」(岡本氏)という。
子供が片手で食べられるかき氷ができないか? そんな思いから発売したガリガリ君は、国民食とも言えるアイスに成長した。市場動向に重きを置いたとはいえ、閉塞感が漂う今だからこそ、消費者は想像の斜め上を行く新味を待ち望んでいる。攻めと守りのバランスが整ったガリガリ君の次の一手に注目だ。