「地域産品」×「ストーリー」。その掛け合わせの魅力をユニークなカード形式のカタログギフトに乗せて伝え、地域振興につなげている企業が地元カンパニー(長野県上田市)だ。全国800の生産者と取引ネットワークを築いた仕組み作りや、カタログギフトだからこそできるビジネス展開、また期待する社会的役割などについて聞いた。
経済停滞が目立つコロナ禍にあって、躍進する地方企業がある。長野県上田市の地元カンパニーだ。野菜や果物、肉や魚類、しょうゆや酒など全国の地場産品をパッケージ化し、作り手の物語と共に送るカタログギフト「地元のギフト」を提供する会社だ。
そのカタログギフトの特徴は、従来型の冊子ではなく、1枚1枚に作り手自身の言葉で商品を説明した10~20枚程度のカードがセットになって届くこと。そこから商品を選び、ウェブやはがきで申し込む仕組みだ。
贈る側は、慣れ親しんだ地元や思い入れのある地域の味をプレゼントでき、受け取った側は個性豊かな産品を味わい、地域や作り手との新鮮な出会いも楽しめる。人と直接会うことが困難な状況下、そのユニークなシステムは注目を集め、同社の2021年3月期の売り上げは前期比3倍の1.8億円を見込む。
創業者の児玉光史氏は上田市の出身。実家はアスパラガスの栽培農家だ。「農家を継ぐ気はなかった」といい、東京大学で学んだ後は大手IT企業の営業マンに。だが「地元の役に立つ仕事をしたい」との思いが強まり、4年後に辞表を提出。事業の種を探し始めた。
ウェブ制作で生計を立てながら、東京在住の農家出身者たちと「セガレ・セガール」というコミュニティーを結成。それぞれが実家の農作物を週末に東京・自由が丘のマルシェで売ると、味の良さや新鮮さ、「農家の息子や娘が売る」との話題性も手伝い、飛ぶように売れた。「地域産品」×「ストーリー」。その掛け合わせの潜在能力を、児玉氏は強く実感した。だからこそ、事業では安易に産直販売や卸売りを行おうとは考えなかった。
「家計簿の費目でまず節約対象になるのが、日々の『食材費』。そこに参入しても、価格競争に巻き込まれ、疲弊するだけだと思いました」。
もっとひもが緩い“別の財布”はないか。ひらめいたのが「贈答品」だ。「ものを贈って喜ばれ、幸福感を味わいたい。多少は見えも張りたい。それが人情。贈答品なら、農産物もまだまだ入り込める余地があるのではと考えました」。
ちょうど自身が結婚するタイミングだったため、実家のアスパラガスやセガレ・セガールの農作物を載せたカタログギフトを自作し、引き出物にすると、予想以上の大好評。この経験が「地元のギフト」の発想につながった。
贈り主が予算に合わせて希望のコースを選ぶと、贈り先の相手にカタログが届き、そこから好みの品を選んで受け取れるカタログギフト。日本に普及したのはおよそ30年前で、当初は引き出物や香典返しなどの個人需要がメインだったが、近年は株主優待、周年記念、福利厚生、懸賞やキャンペーンといった法人需要が急増。法人ギフトの市場規模は約2.8兆円にもなる。児玉氏は法人ギフトを事業の核にしようと決め、12年に地元カンパニーを都内に設立。16年には、実家がある上田市の農村地区に会社を移転した。
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