モノ消費から「コト消費」へと消費トレンドが移行していく象徴が刀剣乱舞でもある。なぜなら、刀剣乱舞には体験できる要素が多かったからだ。ゲームに出てくる刀剣男士の由来である本物の刀剣を見に行きたいという人が動き、全国の美術館の展覧会で行列ができた。

※日経トレンディ2020年10月号の記事を再構成

前編はこちら

 時代も刀剣乱舞に合っていた。17年6月から18年5月末までに発売されていた1500万アプリを対象に行われた調査では、アプリ内購入を行う確率が女性のほうが79%も高く、その金額も前年の倍になっている(Liftoff社調べ)。つまりコンテンツに対する女性の財布のひもが緩み始めた頃に刀剣乱舞が生まれたのだ。そして人々の関心が「モノ消費」から「コト消費」へと移行していく中で、刀剣乱舞には体験できる要素が非常に多かったことも挙げられる。

 「なんといっても現存する刀剣に会いに行けるのは大きい」(小坂氏)。ゲームの人気の高まりとともに、刀剣を所蔵する全国の神社や博物館、美術館にファンが押し寄せ、刀剣を所蔵する施設からコラボレーションの依頼が舞い込むようになってきたのだ。最初のコラボレーションは、15年5月。天下三名槍「御手杵」のレプリカが展示されている結城蔵美館(茨城県)で、開催された槍に触れての記念撮影会には、約2000人のファンが詰めかけた。

 「美術館などとのコラボは想定にはありましたが、こちらから積極的に仕掛けることはしませんでした。しかし、実際に本物の刀剣を見て、その素晴らしさを感じてほしいと強く思っていました。コラボの依頼をいただいて実現できたことで、ファンの方々と刀剣をつなげる機会を広げられそうという手応えを感じました」(小坂氏)

 これを皮切りに、モチーフとなった刀剣を所蔵する神社仏閣や、ミュージアムなどで開催される全国の刀剣展覧会から要請を受け、数々の刀剣展示コラボレーションを実施し、その数は5年半で50件以上にも上る。パネル展示やグッズ販売はもちろん盛り上がったが、それだけでない。市区町村など行政とコラボしたスタンプラリーが行われ、JR東日本とのコラボでは、上野と水戸を結ぶ特別列車「快速 燭台切光忠」が運行。内容も、施設内にとどまらない広がりをみせていく。

 18年の京都国立博物館の特別展『京のかたな 匠とわざと雅のこころ』には、国宝19件を含め、刀剣男士のモチーフとなった23振りの刀剣を集めた大規模な展示が開催された。25万人超という、特別展としては歴代7位となる観客を記録した。

京都国立博物館の特別展

18年に行われた京都国立博物館の特別展『京のかたな 匠とわざと雅のこころ』は、25万人超を集客
18年に行われた京都国立博物館の特別展『京のかたな 匠とわざと雅のこころ』は、25万人超を集客

 また、コラボレーションではないが、独自に刀剣イベントを開催する施設も増えてきた。「鯰尾藤四郎」「物吉貞宗」「後藤藤四郎」「南泉一文字」「山姥切長義」のモチーフとなる5振りの刀剣を所蔵する徳川美術館(愛知県)は、刀剣の知識や鑑賞の仕方など、初心者に向けた勉強会やトークイベントにも力を入れている。

 「刀剣イベントは、夜に募集して翌朝には完売することもある。有料イベントとしては異例の現象」と同館の広報、吉川由紀氏は語る。これまでも刀剣展示は人気ではあったが、観客は高齢の男性が中心。従って先細りが想定されるジャンルでもあった。

 「女性の入館者は約3倍に増えました。学芸員が驚くほど専門性が高く、知識も豊富な方が増えています。刀剣は本体のみならず鞘や収める箱にも、金工や漆などの伝統工芸の技術が凝縮された美術品です。そこで、刀剣から派生した古美術の魅力を伝えるイベントにも力を入れるようにしました。刀剣乱舞がもたらした日本文化、古美術への影響は計り知れません」(吉川氏)

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