5周年を迎えた人気スマートフォンゲーム『Fate/Grand Order(以下FGO)』が仕掛けたのは、なんと47都道府県の地方新聞の30段広告。20代の若者が中心のゲームにおいて、新聞広告を使った狙いとその驚くべき効果とは。
※日経トレンディ2020年10月号の記事を再構成
2015年7月30日にリリースされ、様々な経済効果を生んできたスマホゲームの『Fate/Grand Order』(以下、『FGO』)。人気の理由は、奈須きのこ氏が中心となって描くシナリオと、武内崇氏をはじめ多数の作家によって描かれるサーヴァントだ。プレーヤーは、歴史上の英雄や、伝説・神話上の人物からインスピレーションを得た「サーヴァント」を従える「マスター」として、ゲームをする。そのサーヴァントのことをもっと知りたいという人が消費を生んできたというのは、本誌19年12月号、20年1月号で紹介してきたところだ。
20年は、『FGO』の5周年に当たる。それを記念して行われたのはなんと、30段の新聞広告だ。しかも、47都道府県の地方新聞でそれを行うという前代未聞のプロジェクトを敢行した。「ゲーム中に登場するサーヴァントが全国の名所を訪れたら」というコンセプトで、全国47都道府県分と、全国版1種、計48種のサーヴァントの描き下ろしイラストを順次公開。背景には実写の写真を利用し、サーヴァントがその場にいるような絵になっている。
プレーヤーは若年層なのに、新聞という媒体を選んだ理由
企画の担当者であるアニプレックスの渡邊力輝也氏はこう語る。
「今まで夏の周年イベントでは、幕張メッセでのブース展示やステージイベントなどを行ってきた。しかし、今年は5周年という節目。リアルイベントに特化せず、期間を長くして徐々に盛り上げていきたいという思いがあった」(渡邊氏)
本来、5周年にふさわしいイベントとして、音楽フェス形式のイベントを東京ドームで20年8月10日に開催する予定だった。「音楽フェスで事前に盛り上がりを作れるのは出演アーティストの解禁情報が中心。そのため、ゲームとの連動感が難しく、イベント開催日までに盛り上げる仕掛けを用意したかった」(渡邊氏)という。
「手元に残るモノにしたい」という思いから、新聞広告を思いついた。プレーヤーの大半が若者という中で、「新聞」を選んだのはかなり意外だ。「ゲームからTwitterなどへと、ネットやSNSを媒介としてコミュニケーションが生まれる傾向がある。だからこそ、新聞広告だけにとどまらない可能性を見越して、あえて選んだ」と渡邊氏は言う。また、本来はこの時期は東京五輪の前だった。テレビは五輪一色になるであろうときに、あえて別のメディアを使うという意図もあった。
全国紙ではなく、地方新聞にしたことにも理由がある。地域に根ざしたものでダイレクトに届けたいという思いがあったのだ。掲げたコンセプトは、「under the same sky」(直訳すると「同じ空の下で」)。「『FGO』はスマホ画面の中で楽しむゲーム。その地域にいる人が、実際の景色と照らし合わせることで、ゲームのことをリアルに感じられるようにし、スマホゲームと現実をつなげたかった」と渡邊氏。
新聞の見開きいっぱいに大きくイラストを掲示し、エリアごとに6段階に分けて広告を打った。5月4日は関東・甲信、5月25日は東海・北陸、6月3日は九州・沖縄、6月13日は北海道・東北、7月6日は中国・四国、7月20日に関西と、約2週間に1回の頻度で公開。最終日からは、阪急大阪梅田駅にて、全国紙で公開したビジュアル広告を含めた計48個を1つの看板で掲出。また、地下鉄御堂筋線梅田駅のホームに設置してあるデジタルサイネージを2週間借り切り、約2分半のビジュアル映像を流した。新聞の発売や情報解禁後は、毎回Twitterのトレンドに入るほど話題になった。
「どの地域にどのサーヴァントが来るか予想した人もいたが、意外なキャラクターが来ることで盛り上がったのもあった。長野県のキングプロテアなどは誰も予想できなかったのではないか」(渡邊氏)
文字は極力減らし、奇麗な絵を大きく掲載したのも「バズ」を生んだポイントだ。実はこの広告、ゲームへ誘導する仕掛けはほとんどない。『FGO』のロゴも最小限の大きさだ。QRコードやゲームの解説もない。
「とにかく文字を極力減らした。『これは何?』と思う人もいるだろう。だが、シンプルに『いい絵だな』と感じ、調べるなど次のアクションを起こしてもらうほうが大事。能動的に動いてゲームを始めるほうがコンテンツを楽しんでもらえるはずだと考えた。今はTwitterのトレンドに載ることもプロモーションの一つなので、より話題を生みやすくして、結果的に『FGOって楽しそうだな』と思ってもらえることを期待した」と渡邊氏は話す。
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