エー・ピーカンパニー(東京・港)が運営する居酒屋「塚田農場」の業態転換が進んでいる。かつて東京・渋谷に5店舗あった塚田農場は2店舗に減り、「地どり屋つかだ」「焼鳥つかだ」といった専門店に変わった。現在、塚田農場は全国に約100店舗あるが、今後10年で全店舗を業態転換するという。
居酒屋の「塚田」は卒業、新ブランドの「つかだ」へ
地鶏料理をメーンに据えた居酒屋チェーン「塚田農場」をはじめ、地鶏や鮮魚、ホルモンといった食材を扱う店舗を続々と展開しているエー・ピーカンパニー。現在は「脱居酒屋」を目指し、渋谷をモデルエリアとして「塚田」から「つかだ」へのリブランディングを進めている。
エー・ピーカンパニーは生産者が食品加工・流通販売までを行う“生販直結モデル”を採用しているのが特徴。中間流通コストを排除することで他社よりも安く料理を提供している。宮崎や鹿児島、北海道などにある自社農場および契約農場で飼育した地鶏を提供する塚田農場もその一例だ。
2007年に「宮崎県日南市 塚田農場」のブランドで東京都八王子市に初出店して以来、高価格帯の居酒屋チェーンとして順調に店舗数を増やしていた塚田農場だが、ここ数年は閉店が相次いでいた。「塚田農場のブランドを立ち上げて13年ほど。そろそろリブランドのタイミングかなと」(エー・ピーカンパニー米山久社長)。
米山社長によれば、塚田農場を展開していくなかで居酒屋チェーンというイメージが定着してしまい、本来のターゲットと違う客層が中心になっていったとのこと。「塚田農場での平均客単価は3000円以上を狙っていた。そのため低価格な居酒屋という認識で来店する層からは『居酒屋チェーンにしては高い』と言われる一方で、本来ターゲットとしている層に来てもらえなくなった」と米山氏。
また米山氏は「大人数でワイワイガヤガヤ飲む、居酒屋を宴会に利用するといったシーンは新型コロナウイルス感染症流行の前から少しずつ減っていた」と付け加える。実際、近年の消費動向として10人、20人での宴会よりも2、3人の仲間が気軽に集まる飲み方が増えているのだという。「そうした世の中の変化を見て、居酒屋つまり塚田農場はそろそろ卒業すべきだと思った」(米山氏)。
「つかだ」を冠した新ブランドへの転換が始まったのは、18年に東京・中目黒に出店した「焼鳥つかだ」からだ。その後は19年11月に「しゃぶしゃぶつかだ」を、20年5月には首都圏に「つかだ食堂」を3店舗オープンするなど、着々とリブランディングを進めている。米山氏は「リブランディングについては、(クリエイティブディレクターの)佐藤可士和氏と3年ほど前から進めてきた。現在、塚田農場は100店舗ほどあるが、1年間に5~10店舗ずつ10年かけてリブランディングしていく」と語る。(関連記事:塚田農場の新業態 「可士和ワールド」な中身とは)
かつて渋谷に5店舗あった塚田農場は、現在は道玄坂店と宮益坂店を残すのみで、他の店舗はそれぞれ「地どり屋つかだ」「焼鳥つかだ」「つかだ食堂」へと業態を転換。20年6月にはこだわりの食材を使用した弁当・総菜専門店の「つかだ」もオープンしている。エー・ピーカンパニーがモデルエリアと位置付けた渋谷には現在、塚田農場が2店舗、つかだブランドの専門店5店舗が集結している状態だ。
新ブランドは希少価値を重視、ターゲットは“大人”
新ブランドの地どり屋つかだは、居酒屋チェーンのイメージが付いてしまった塚田農場を、本来の地鶏専門店としてリブランディングするための旗艦店。「違いがわかる大人のための塚田農場」をコンセプトに、平均客単価6000~8000円の店で扱うような食材を提供していくという。
カウンターとテーブル合わせて55席の店内は、宮崎産の飫肥杉(おびすぎ)を基調にした落ち着いた雰囲気で、装飾はほとんどない。団体用のスペースがないのは「2、3人で利用してもらうことを想定しているため」(米山氏)とのことだ。
メニューは地鶏炭火焼き(1280円、税別、以下同)、地鶏のしゃぶすき(一人前980円)、地鶏サムゲタン(一人前980円)など。「おすすめ」としていくつかの料理をセットにした「いつもの(1800円)」と「ひととおり(2800円)」も用意している。同店における平均客単価は4200円程度を想定しているという。
また、中目黒店に続く2店目の出店となった焼鳥つかだ 渋谷店は、カウンター16席、テーブル24席、個室8席を備える焼き鳥専門店だ。「ちょっと贅沢(ぜいたく)な大人の入り口」がコンセプトで、ターゲットは30代前後の社会人。店内もシンプルで落ち着いた雰囲気になっており、さまざまなワインを取りそろえているのも大衆的な焼き鳥屋と一線を画す特徴だ。各種焼き鳥は1串250~350円。「焼鳥つかだコース(2500円)」「水炊き鍋コース(3500円)」も用意している。
複数のブランドを1カ所に展開するメリットについて米山氏は「居酒屋だけなら月1、2回の利用でも、地鶏、食堂も利用するとなれば月3回、4回に増える。同じ地鶏を扱うにしても、見せ方を変えて専門性をつくっていく」と話す。ブランドが多岐にわたると食品ロスなどの非効率もありそうだが、「1業態で20~30店舗あれば食品ロスは出ない」(米山氏)とのこと。希少性を保つために今後は100店規模の展開はせず、20~30店舗の“塊”をつくっていく方針だ。

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