第一部「深セン最新トレンド」に続く、第二部「アリババ、京東集団……中国の最強データ活用企業の新成長戦略」では、日本ではまだよく知られていない中国ネット企業の雄、阿里巴巴集団(アリババグループ)の真の実力をまず解き明かしていく。第1回と第2回では、アリババ創業者であるジャック・マー会長が2016年から打ち出した「新小売(ニューリテール)」戦略に基づいて、出店攻勢を続けるアリババの最新のリアル店を取り上げ、アリババの狙いを提示しつつ、その実態を示す。

アリババの本社がある中国・杭州市の中心部──。文三路という幹線道路沿いに、日本で言えば「ちまき」に当たる粽子(zongzi)という料理で有名な、創業100年以上の老舗「五芳齋(ウーファンジャイ)」の店がある。
外から見るとどこにでもありそうな普通の店だが、店内に店員の姿は見当たらない。この店こそが、地域密着の生活情報をユーザーに提供するアリババの傘下企業、口碑(koubei)が協力し、五芳齋が既存の店をリニューアルして今年1月に開業した、アリババの新小売戦略を体現する無人レストランの1号店である(写真1)。
ジャック・マー会長の音頭でアリババが推し進める新小売戦略を一言で言えば、「ECとリアル、オンラインとオフラインをスムーズに統合し、最適な人に、最適な場所で、最適な商品を提供して顧客満足度を引き上げる」(アリババグループ コーポレートアフェアーズの徐君宣ディレクター)というものだ。この無人レストランのどこに、そのような仕掛けがあるのか──。
店内にはテーブルとイスが並び、右手壁面に約40の扉付きボックスが設置され、その上に料理のメニューが掲示されているだけ(写真2)。厨房はボックスの裏側にあり、店内からは様子をうかがうことはできない。

店に入った客は自分のスマートフォンで、インストール済みの決済アプリ「支付宝(アリペイ)」をまず立ち上げ、テーブルに貼られたQRコードを読み込む(写真3)。すると、五芳齋の注文画面が表示され、選択肢が2つずつ示される。「今すぐ食べる」か「料理の出来上がる時間を指定する」、それに「店内で食べる」か「持ち帰る」である(写真4)。


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