企業間の取り引きはビッグデータでどのように見え、本当に地域に貢献している企業はどこなのか。そしてデータに基づくことで政策の立案や実行はどう変わるのか。経済産業省が中心となって国が2017年末に選定した2148社の「地域未来牽引企業」について、ビッグデータを提供した帝国データバンクがビジュアライゼーションをフルに活用し、ケーススタディをまじえて5回にわたって解説する。今回は地域クラスター活用型として選出された、トイレットペーパーメーカーとしては全国上位の生産量を誇る丸富製紙の事例を紹介する。本記事は書籍『ビッグデータで選ぶ地域を支える企業』を基にしている。
地域未来牽引企業に選ばれた企業を、取引データを中心とした企業ビッグデータで見ると、強みとするビジネスの背景に巧妙に仕掛けられたビジネスモデルが浮かび上がってきます。地域未来牽引企業に選ばれた企業は、長い時間をかけて地域の企業との取引関係を築き、自社が行うビジネスの中で役割分担をしているかのように、実に多様な生態系を構築しています。
そこで、実際に現地へ訪問し、経営者にインタビューしてそのエコシステムがどのような意図で組み上げられたのかという背景を聞き、ビジネスモデルの分析を試みます。地域未来牽引企業として選出された際のビッグデータを用いた計算を再現して分析を試みますが、データで選出された企業は全般的にスコアが高い傾向にありますので、特に注目すべきスコアを解説します。
企業研究を行う場合、商品やサービスの素晴らしさや研究・開発の苦労、または経営者がどのような行動をとったかなどに焦点が当たることが多くなります。地域未来牽引企業の場合、「牽引」というキーワードが埋め込まれているように、その企業が頑張ることで一緒にビジネスをしている企業も引っ張られていることが示唆されています。
製紙業の本場、静岡の丸富製紙
地域未来牽引企業の選出で用いられた6つの指標は全体の中で比較するために偏差値換算され、それぞれの値は評価ウエートが掛けられています。 事例研究では個々の値に注目して高いスコアがつく背景を、「地域クラスター活用型」「地域クラスター構築型」「全国ネットワーク開拓型」の3つのカテゴリーで探っていきます。
Category1「地域クラスター活用型」 丸富製紙

静岡県富士市は、富士川が流れる豊かな水流を誇り、古くから製紙業が盛んな街です。特に富士山の伏流水は製紙業には欠かせない立地要素で、明治時代から多くの製紙会社が工場を立地させてきました。日本家庭紙工業会によると、衛生用紙(ティッシュペーパー、トイレットペーパー、タオル用紙、チリ紙)を製造する(製紙業界では「抄造」という)事業所は、全国で102カ所ある中で、静岡県には40の事業所があるように、まさに製造の本場です。
1955年に設立された丸富製紙は、1959年から衛生用紙(トイレットペーパー、チリ紙)の生産を開始し、徐々に機械設備を増強しつつ、現在では主力の富士根工場のほか、県内に4カ所の生産工場を持つトイレットペーパーメーカーとしては全国上位の生産量を誇る会社です。

ギフトやウェディング、アレンジメントなどフラワービジネス大手の日比谷花壇とコラボした「Hanataba プレミアム 日比谷花壇プロデュース」や、くまモンなどのキャラクターロール、地元静岡県産の緑茶を使い消臭成分を練りこんだ「緑茶の力プレミアム」など、高品質で多様なラインアップを開発・展開しています。自社工場を構え、トイレットペーパーの生産が売上高のほとんどを占める同社が、地域の「牽引」となっている構造とはいったいどのようなものなのでしょうか。
記事冒頭のビデオがその構造をビジュアライズしたものですが、その意味するところを分析していきたいと思います。
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