モビリティ革命「MaaS(Mobility as a Service)」の実像に迫る特集の最終回。「万人に開かれたモビリティ」を志向するMaaSがもたらす恩恵は、地方都市を再活性化し、高齢者のみならず“外出しない”若者たちを街へと駆り立たせ、日本を成長軌道に導くことだ。自動車産業を破壊する脅威の“黒船”と捉えるか、それとも前向きなサービス創造へと舵を切るか。これからの日本が選択すべき道を日本総合研究所創発戦略センターの井上岳一シニアマネジャーが提言する。

MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)という概念の「生みの親」であり、フィンランドのベンチャー企業・MaaSグローバルを率いるSampo Hietanen氏は、MaaSを構想するに当たって目標としたのは、「モビリティサービスを組み合わせて、クルマを保有する生活よりも、より良い生活を実現するサービスを作り出すこと」と日経クロストレンドの取材で語った(特集第3回「クルマを買う時代は終わった!? 『モビリティ革命』生みの親を直撃」)。
この発言からも分かる通り、欧州発のMaaSは、何より「自家用車を保有しない暮らし」の実現を前提とする。自家用車以上の使い勝手の良さを、公共交通とそれ以外の交通手段の組み合わせで目指すものである。
自動車を基幹産業にしてきた我々日本人にしてみると、自家用車を減らそうとするMaaSの出現は、黒船来航のように映る。だが、個人に閉じたモビリティである自家用車より、万人に開かれた公共交通を主体にするほうが、社会全体のモビリティが向上し、多くの人のQOL(生活の質)も改善する。それこそが、MaaSが究極において目指すものと言えるだろう。
そのためには、交通手段のみならず、町づくりにまで踏み込んでのモビリティ変革が必要になる。計量計画研究所の牧村和彦氏が寄稿した、本特集の第17回(「MaaSの終着点は未来の『スマートシティ』 米国の最新事情」)で、同氏が米国運輸局のスマートシティチャレンジの例を引き合いに出しながら、スマートシティこそMaaSが究極において目指すものであると結論付けるのもそのためだろう。結局、交通と町づくりの統合によるQOLの向上に、MaaSの主眼はあるのだ。スマートシティチャレンジで優勝したオハイオ州コロンバスでは、低所得者の生活改善に結び付くモビリティのリ・デザインが構想されているが、移動を変えることは、人を変え、経済を変え、社会を変える。万人に開かれたモビリティを実現することで、生活改善、経済改革、社会変革を促すことが、MaaSの本義である。
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