モビリティ革命「MaaS(Mobility as a Service)」の実像に迫る特集の16回目。MaaSの実現を目指す動きが急速に進み始めた一方で、クルマそのものはどのように進化しようとしているのか──。乗用車の分野では、AI(人工知能)によってドライバーの行動や気持ちを “理解”した上で、自動運転の技術を駆使してドライバーの運転をサポートしたり、会話や情報提供などによって利便性を向上させる取り組みが始まっている。その動きは、今夏に発売されるトヨタ自動車の新型クラウンのようなコネクテッドカーとどう関わっていくのか。トヨタが昨年から打ち出したコンセプトカー「Concept-愛i」を軸に取り上げた。

 春真っ盛りのある日の朝──。Aさんは愛車のトヨタ車の運転席に乗り込んだ。すると、「Yui」と名付けられた車載のAI(人工知能)エージェントが、Aさんに「おはようございます」と挨拶。運転するAさんと、その後も車中で会話を続けた。Yuiは個人の嗜好を推定する仕組みを持ち、Aさんが好む話題を積極的に取り上げ、話しかけているからだ。

TOYOTA Concept-愛i の外観
TOYOTA Concept-愛i の外観
TOYOTA Concept-愛i の内装イメージ
TOYOTA Concept-愛i の内装イメージ

 Concept-愛i のAIエージェントであるYuiが個人の嗜好を推定する仕組みはこんな具合だ。まず、ネット上にあるニュースサイトなどからYuiが情報を収集し、世間一般で何が話題かをトピックごとに数値化する。同時に、ドライバーが車中で発する言葉や投稿しているSNSなどから、話題のトピックについてどれほど興味関心を持つかを数値化し、トピックごとに両者を比べる。これにより、世間一般と比べてドライバーがどのトピックに興味関心を持つか、あるいは持たないかを、ドライバーの嗜好としてYuiが推定するわけだ。

 次いでYuiは、運転席の腰の部分を操作して、Aさんが呼吸しやすいように環境を整えてリラックスさせた。さらに、Aさんのジェスチャーを撮影していた車内カメラのデータや会話の盛り上がりの程度を分析し、Aさんが好むアップテンポの曲を車内に流し始めた。眠気が生じ始めたAさんに「覚醒」してもらうことが狙いだ。

 帰りに際してYuiはAさんに、「行きとは別ルートで帰宅しましょう」と提案した。YuiはこれまでAさんが運転するたびに、車内カメラで撮影した画像や会話の様子からAさんの感情をモニタリング。どの道を走ったときにどんな感情になるかをデータとして蓄積している。このデータを分析し、Aさんが“幸福な気持ち”になる可能性の高い道を帰りのルートとして示したのだ。目的地までの最短距離を示す「効率優先」の従来のカーナビとは一味違う。AさんはYuiとの会話を楽しみながら、予定の時刻通りに帰宅できた──。

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