モビリティ革命「MaaS(Mobility as a Service)」の実像に迫る特集の7回目。クルマの所有からシェアへの流れが自動車ディーラーの経営を直撃する懸念があるなか、事業モデルの変革に大きく舵を切ろうとしているのが、中古車の販売・買取最大手、IDOM(旧ガリバーインターナショナル)だ。同社はクルマの利用に根差した新たなサービスを提供する「CaaS(Car as a Service)」戦略の下、2019年2月期中をめどに個人間カーシェアに参入する構え。日経クロストレンドの取材により、顧客獲得策など具体的な戦略が明らかになった。

「ついにトヨタが、系列販売店に手を付けたか」
多くの業界関係者を驚かせたのは、トヨタ自動車が国内メーカーで唯一続けてきた系列ディーラーごとの販売戦略を見直し、19年にトヨタ店やトヨペット店など4つの直営販売会社をまず東京で一本化するとした18年4月の発表だ。同時に、チャネルの枠を超えたカーシェアリング事業を手掛ける考えも示した。
クルマの所有からシェアへ――。
駐車場が高い都市部で主に進むこの流れは、抗いようがない世界的なトレンドだ。すでに独ダイムラーはカーシェアリング事業の「car2go(カーツーゴー)」を世界で展開し、17年は297万もの人が利用。同社はこれを足掛かりに、公共交通機関やタクシー、カーシェア、レンタサイクルなどをシームレスに統合するスマホアプリ「moovel(ムーベル)」を提供するなど、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)に邁進している。自動車メーカーや販売会社にとって、シェアリングへの対応はMaaSに向けた前哨戦であり、“絶対負けられない戦い”だ。
そうした将来を見据え、大きく変革を遂げようとしているのが、中古車の買取・販売を手掛けるIDOM(旧ガリバーインターナショナル)だ。同社は直営488店(18年2月末)を擁し、その販売台数は約12万5000台(18年2月期)、国内グループ総買取台数では約23万台(同)を誇る最大手。15年には中古車の個人間取引(CtoC)の仲介事業「Gulliverフリマ」を始め、従来の店舗販売だけに頼らないモデルを生み出した。そして16年からは、日本初となる中古車の定額乗り換えサービス「NOREL(ノレル)」を展開。月額1万9800円(税込み)から、最短3カ月で新たな車種に乗り換えられる仕組みで、クルマの所有をサービス化することに挑戦してきた。


同社が当面目指すのは、CaaS(カー・アズ・ア・サービス)カンパニーへの進化だ。上図のようにCaaSはMaaSに至る前段であり、従来のようなクルマの所有だけではなく、シェアリングなどクルマの利用に根差した新たなサービスを提供する領域だ。その先にあるMaaSは、クルマに限らずモビリティ全般の提供価値が重なり、さまざまなライフスタイルとの交流で新たな「モビリティ体験」を生み出すものとして定義している。その狙いをIDOMの新規事業担当である北島昇氏は、こう話す。
「さまざまな移動サービスがつながるMaaSの世界はIDOM単体で完結するものではなく、鉄道やバスなどの交通サービスや旅行会社など他社との協業、あるいは投資が必須。そこで、まずは中古車流通を担う現業を生かしつつ、我々がCaaSと定義する世界で圧倒的な顧客プラットフォームを築き、その強みを持ってMaaSに切り込んでいく」
そのCaaS戦略の重要なカギを握るのが、今回、日経クロストレンドの取材で明らかになった個人間(CtoC)カーシェアリングだ。同社は19年2月期中をめどに参入を検討している。カーシェアといえば、日本でも世界でもBtoCモデルが一般的。例えば、日本では駐車場大手のパーク24グループが展開する「タイムズカープラス」や、三井不動産リアルティが手掛ける「カレコ・カーシェアリングクラブ」などが勢力を拡大している。では、後発のIDOMはなぜ今、CtoCモデルを選択するのか。
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