モビリティ革命「MaaS(Mobility as a Service)」の実像に迫る特集の2回目。MaaSという概念が生まれた地、フィンランドに飛んだ。世界が注目するベンチャー、MaaSグローバルが展開するモビリティサービスの統合スマホアプリ「Whim(ウィム)」は、どこまで移動を便利なものに変えてくれるのか。また、Whimのような統合サービスの土台となり、官民学連携でオープンデータとオープンAPIを実現するフィンランドの仕組みづくりを解き明かす。

カーシェアやタクシー、鉄道、バスなど、あらゆるモビリティサービスを統合し、快適で割安な移動体験をもたらすMaaS(Mobility as a Service)。その源流を求めて、筆者がフィンランドを訪れたのは、氷点下の厳しい寒さが続く3月のこと。ここには、MaaSという概念の「生みの親」であるSampo Hietanen氏が率いるベンチャー、MaaSグローバルがある。同社が展開するモビリティサービスの統合スマホアプリ「Whim(ウィム)」は、実際どのような使い勝手で、どこまで移動を便利なものに変えてくれるのか、現地ヘルシンキでの体験レポートをお届けする。
また、フィンランドのMaaSを語るうえで欠かせないのが、Whimのような統合サービスの土台となり、官民学連携でオープンデータとオープンAPIを実現するビジネス生態系「エコシステム」だ。ユーザー接点として、そのメリットが分かりやすいのはWhimだが、MaaSの本質は、まさにこのエコシステムにある。運輸と情報通信を所管する「フィンランド交通通信省」、ヘルシンキ周辺で営業する公共交通の路線計画や切符の販売を行う「ヘルシンキ地方交通局」、異なる交通モードの情報通信ネットワークの高度化を官民学で検討する窓口となる「ITSフィンランド」の取材を通じて、フィンランドにおけるMaaSの裏側の仕組みをひも解く。
割安? 便利? MaaSアプリを実体験
MaaSグローバルのスマホアプリ「Whim」は、経路検索とモバイル決済を組み合わせたものと考えればイメージしやすい。例えば、ヘルシンキ空港から市内まで移動する場合、Whimを立ち上げて目的地を入力すると、そこまでの経路に加え、それに最適な移動手段をいくつか提示してくれる。

ここで着目したい点は、推奨される移動手段が鉄道やバスといった公共交通だけにとどまらない点だ。タクシーや自転車シェア、カーシェア、レンタカーなど、あらゆるモビリティサービスを組み合わせて、最適解を提案してくれる。さらに、クレジットカード番号を登録しておくことで、それらサービスの予約から決済まで、Whimのアプリ上で行えてしまう。わざわざ切符を購入したり、ネット予約をしたうえで駅窓口やコンビニなどで発券するわずらわしさはない。
料金体系もユニーク。スマホの料金プランのように月額定額コースも設定されている。例えば、月499ユーロ(約6万6000円:1ユーロ約132円換算)の「Whim Unlimited」なら、一定エリアの公共交通、5㎞範囲のタクシーが無制限で乗れ、レンタカーやカーシェア、自転車シェアも無制限で借りられる。自家用車を購入し、維持コストや燃料代、駐車場代などがかかることも考慮すると、割安感のある設定のように思える。月額定額コースのほか、1回ごとの決済も可能だ。

ルートを選んで決済をし、サービス開始ボタンを押すと、“旅”の始まりだ。アプリでは総移動時間からのカウントダウンがスタートし、案内に従って移動する。鉄道やトラム(路面電車)に乗る際は巡回に来る駅員に、バスやタクシーでは乗車時にドライバーにアプリの画面を見せるだけ。乗降時に小銭を用意したり、交通系ICカードを端末にかざしたりしなくても済む。例えば、電車とタクシーを乗り継ぐルートを選んだ場合、ユーザーは予約したタクシーのリアルタイムの位置情報を把握しながら電車で最寄り駅に移動し、乗り換えられる。
MaaSグローバルによると、Whimは2016年からサービスを開始し、ヘルシンキの会員は現在約3万人、アプリのダウンロード数は約5万に上る。また、ヘルシンキのWhimユーザーは、利用前は公共交通(48%)、自家用車(40%)、自転車(9%)の利用率であったが、利用開始後は公共交通が74%と大きく伸び、自家用車が20%に減少。それまであまりなかったタクシーでの移動が5%に増えた。着実に交通利用方法に変化をもたらしつつあるようだ。

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