政治の「忖度」に、昨年の「ゲス不倫」から続く芸能界や政界の不倫騒動。大人の薄汚さを物語る言葉が躍った17年。人々が心洗われたのは、ひたむきな新星の活躍だった。

 そのなかでも今年の顔といえる2人が、藤井聡太四段と稀勢の里だ。彗星のごとく現れた早熟の天才によって、突然火が付いた将棋。やっとのことで頂点に上り詰めた苦労人により、人気が絶頂に達した相撲。「和」の伝統文化が、全く異なる形で話題をさらった。

 藤井四段が初黒星を喫した対局は、AbemaTVでの視聴数が1200万を突破。今年2番目に多い視聴数といい、連勝記録への関心は数字にも表れた。ワイドショーでは昼食のメニューまでが報道され、「将棋界始まって以来の一大ブームといえるのではないか」(将棋ライターの大川慎太郎氏)というほどの注目を一身に集めた。

 白星が積み上がるにつれ、「藤井特需」が湧き上がった。藤井四段が幼少時に遊んだというスイス発のブロック「キュボロ」は、思考力や集中力を高めるというクチコミが広がり、瞬く間に入手困難に。将棋の町として名高い山形県天童市では、将棋盤や駒を返礼品にした、ふるさと納税への申込件数が急増。9月末までで、前年同期の144件から595件に伸びたという。専門誌「将棋世界」は7月号が完売し、8月号は発売前に増刷を決定。編集長の田名後健吾氏は、「私の知る限り、おそらく創刊以来初」と驚く。街の将棋教室も軒並み生徒数を増やした。

 稀勢の里の横綱昇進による相撲人気も負けてはいない。前売り券は当然のように即完。当日券を求めて、早朝から国技館に列ができる光景が日常茶飯事となった。横綱昇進による経済効果は、1年間で約22億円に達するとする発表も。相撲に詳しい慶應義塾大学の中島隆信教授は、「稀勢の里が決死の覚悟で優勝に挑む姿に、勝負を楽しむスポーツとしての魅力も広がった。11年の八百長騒動以来、ファンサービスなどで信頼回復してきた相撲の人気が頂点に達した」と話す。

 2人に刺激を受けるかのように、スポーツ界に新星が続々誕生。近年、五輪でのメダル獲得など明るい話題の多い卓球界には、平野美宇や張本智和という男女の若手が躍動。相撲と同じく右肩上がりの人気を加速させ、6月にはスクールやショップ、卓球をコンセプトにしたレストランまでが一体となった複合施設「T4 TOKYO」が東京・渋谷にオープンした。

 清宮幸太郎が高校通算で、中村奨成が夏の甲子園でそれぞれ最多本塁打を更新。桐生祥秀は、日本人初の100m9秒台と、今年の記録ラッシュは枚挙にいとまがない。ゴルフでは畑岡奈紗、女子フィギュアでは本田真凜という若き新ヒロインが誕生した一方、宮里藍と浅田真央という2大女王がそろって引退。新旧交代も印象的だった。

【将棋】藤井聡太

将棋を一大ブームに導いた早熟の天才

 史上5人目の中学生棋士としてデビュー。昨年12月、60歳以上の年齢差も話題になった、加藤一二三九段(当時)との初対局に快勝。その後も白星を重ねて連勝を29に伸ばし、将棋界では破られないといわれていた最多連勝記録を、デビューから無傷のおまけ付きで更新した。「将棋界始まって以来のスター」(大川氏)の誕生に、藤井四段の対局には報道陣が殺到。将棋会館にもファンが集まり、扇子などの「藤井グッズ」を買うために朝5時から並ぶ人もいたといい、将棋史に残るブームの立役者に。「デビューの鮮烈さはピカイチだが、現在の実力はまだ将棋界で20番手くらい。ポテンシャルは間違いなく、将来が楽しみ」(大川氏)といい、今後の成長にも注目だ。

【相撲】稀勢の里

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