(※NIKKEI DESIGN 2017年8月号の記事を再構成)

企業にとって目に見えない資産ともいえる大切な「ブランド」。これを新たに再生したり、さらに強化したりしようとした成功事例を改めてお届けします。

Q 明治に学ぶ、ある日突然、ブランド名が使えなくなったら?

【A】
明治のうがい薬のブランド「イソジン」が、ライセンス契約終了によって使用できず。50年以上の歴史があるブランドを失った。うがい薬のビジネスを続けるため、イソジンで30年以上にわたって親しまれてきたキャラクター「カバくん」を強調し、新しい「明治うがい薬」をアピールした。

 日本のうがい薬の代表的ブランドである「イソジン」。明治製菓(当時)が1961年に発売し、「明治イソジンうがい薬」として親しまれてきた。1985年にはカバのキャラクター「カバくん」が誕生する。うがいをするときの口を大きく開けるしぐさを、大きな口が特徴のカバになぞらえたキャラクターだ。テレビCMなどの広告に登場するほか、同社は小学校・幼稚園で出張授業「うがい教室」を開くなど、子供たちへの教育にも力を入れており、そうした場でもカバくんの着ぐるみが活躍し、ブランドの顔として定着した。

 ところが、50年以上にわたって育ててきた「イソジン」ブランドが使えなくなる日がやってきた。ブランドの商標権を保有するのは米製薬会社のムンディファーマ。明治製菓とは技術提携およびライセンス契約を結んでおり、2011年の明治グループの企業再編以降はMeijiSeikaファルマが製造を、明治が販売を引き継いでいた。一方、ムンディファーマは医療用医薬品も手がけるグローバル企業であり、この分野では塩野義製薬グループと提携し、日本で事業を展開してきた。こうした事情から、ムンディファーマと明治とのライセンス契約は2016年3月で終了。同年4月1日から、「イソジン」はムンディファーマと塩野義グループが製造販売することになり、明治は旧イソジンと中身は全く同じで商品名を変更した「明治うがい薬」を発売した。

 ブランド名は失ったが、カバくんは明治グループ独自のキャラクターであり、同社が引き続き使用できる。「カバくんは、登場した30年以上前からほとんどデザインを変えていない」と栄養営業本部栄養マーケティング部マーケティング2グループの畑中拓一氏は言う。定期的に行っている調査でも「カバくんのうがい薬」「うがい薬=カバくん」と想起するユーザーが多かった。そこで、新ブランドではカバくんを前面に押し出したプロモーションを展開。テレビCMやPOPで露出を高めたほか、うがいと手洗いの大切さや正しいやり方をカバくんと一緒に学ぶ絵本風の冊子を初めて制作。出張授業などに活用し、啓蒙により力を入れた。

新しくなった「明治うがい薬」のパッケージ(左上)は、旧「イソジンうがい薬」のデザインをほぼそのまま踏襲。変わらない安心感を与える。一方で、カバくんを大きくあしらい、うがいと手洗いの大切さや正しいやり方をぶ絵本風の冊子を初めて制作。小学校や幼稚園での教育に、より力を入れていく(右上と下)
新しくなった「明治うがい薬」のパッケージ(左上)は、旧「イソジンうがい薬」のデザインをほぼそのまま踏襲。変わらない安心感を与える。一方で、カバくんを大きくあしらい、うがいと手洗いの大切さや正しいやり方をぶ絵本風の冊子を初めて制作。小学校や幼稚園での教育に、より力を入れていく(右上と下)
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CMソングも1988年から同じものを使用しており、多くの人にとってなじみ深いブランド資産の1つ。商品名だけを差し替え、その他の歌詞やメロディーは全く同じものを使っている
CMソングも1988年から同じものを使用しており、多くの人にとってなじみ深いブランド資産の1つ。商品名だけを差し替え、その他の歌詞やメロディーは全く同じものを使っている
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 一方、パッケージデザインは、ブランド名こそ変更したものの、レイアウトはほぼ同じ。カバくんを大きく強調するような変更はしていない。「医薬品は何よりも安心感が重要。デザインを変えないことで、店頭では、従来と同じように手にとってもらえる」(畑中氏)。キャラクターという財産を生かすための、「攻め」と「守り」の使い分けだった。

風邪やインフルエンザが流行する秋冬は、うがい薬の需要が高まり、プロモーションを強化する季節。2016年のプロモーションでは、新しいポーズを決めるカバくんや、人が近づくとCMソングが流れるPOPを店頭に設置した
風邪やインフルエンザが流行する秋冬は、うがい薬の需要が高まり、プロモーションを強化する季節。2016年のプロモーションでは、新しいポーズを決めるカバくんや、人が近づくとCMソングが流れるPOPを店頭に設置した
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