「変なホテル」のブランディングを担当するGRAPHの北川一成氏と共に、広告やパッケージにとどまらない総合的なデザイン戦略の重要性を、実例を基に考える連載企画。今回は京都・舞鶴の「舞鶴赤れんがパーク」。6年で来場者数を5.7倍、売り上げを7.9倍に伸ばしたブランディングの秘密とは?

ロゴマークのモチーフは、「赤れんが倉庫と船」。赤色はれんが、青色は海のイメージだ。横長のデザインで、縄文時代から現代まで続く舞鶴の歴史と文化を表現した
ロゴマークのモチーフは、「赤れんが倉庫と船」。赤色はれんが、青色は海のイメージだ。横長のデザインで、縄文時代から現代まで続く舞鶴の歴史と文化を表現した

 京都府舞鶴市は、2013年より「舞鶴赤れんがパーク(以下、赤れんがパーク)」のブランディングを実施し、来場者数や土産物などの売り上げを着実に伸ばしている。

 赤れんがパークは、明治期に海軍が建設した倉庫群を中心施設とする公園で、12年にオープンした。舞鶴市は同パークの活性化を目指し、13年から15年までの3年間、民間のディレクターとクリエイターの力を借り、ブランディングを推進。行政と市民が一体となって取り組むための仕組み「舞鶴赤れんがパークブランディング機構(以下、ブランディング機構)」を発足し、その活動は現在も継続している。その結果、12年の赤れんがパークの来場者数は12万人ほどだったが、17年は5.7倍の69万人に増加。赤れんがパーク内の土産物や喫茶などの売り上げの合計は、12年度は約1700万円だったが、17年は7.9倍の1億3400万円と伸び続けている。

 舞鶴市は、14年7月に舞鶴若狭自動車道、15年7月に京都縦貫自動車道が全線開通することを見越し、赤れんがパークのオープン当初から独自にブランディングに取り組んでいた。だが、効果的なプロモーションを見いだせず、赤れんがパークは閑散とした状態が続いていた。そこで、地域ブランディングの実績がある民間ディレクターの知見を借りようと、東京駅前の新丸ビル7階のレストランフロア「丸の内ハウス」をプロデュースする玉田泉氏と、同フロアで店舗を経営する佐藤としひろ氏に協力を依頼。GRAPHの北川一成氏は、玉田氏と佐藤氏からの要請で、ブランディングのアートディレクションを担当した。

課題:当たり前過ぎて気づかない

 赤れんがパークのブランディングの特徴は、行政と市民が一体となって取り組む「ブランディング機構」を立ち上げたことだ。同時に、玉田氏と佐藤氏は、舞鶴に訪れるたびに商店街や飲食店などに積極的に足を運んで、市民と一緒にブランディングを始めることを説明するなど、ブランディングに直接関わらない市民とも交流を重ねたそうだ。ブランディング機構のミーティングや一般市民との対話から、「舞鶴という土地の文化、歴史的価値を地元の人たちは見過ごしている」ことに気づいたという。

2015年10月に開催した「赤れんがフェスタ in 舞鶴」のポスター。誰でも参加できる楽しいイベントであることが伝わるように、ポップなデザインにした
2015年10月に開催した「赤れんがフェスタ in 舞鶴」のポスター。誰でも参加できる楽しいイベントであることが伝わるように、ポップなデザインにした
玉田氏はブランディング機構のメンバーと共に、一流クリエイターによるイベントを企画。市民や観光客に赤れんが倉庫の価値を伝えることを狙った。写真左は、14年7月19日から8月3日まで開催した「海フェスタ京都 サマーイルミネーション」の模様。演出はクリエイティブディレクター若槻善雄氏が担当した。写真右は、14年5月3日から7月6日まで開催した鋤田正義氏の写真展「SOUND&VISION」。プロデュースは立川直樹氏
玉田氏はブランディング機構のメンバーと共に、一流クリエイターによるイベントを企画。市民や観光客に赤れんが倉庫の価値を伝えることを狙った。写真左は、14年7月19日から8月3日まで開催した「海フェスタ京都 サマーイルミネーション」の模様。演出はクリエイティブディレクター若槻善雄氏が担当した。写真右は、14年5月3日から7月6日まで開催した鋤田正義氏の写真展「SOUND&VISION」。プロデュースは立川直樹氏

 特に、赤れんが倉庫群は地元の人にとっては、生まれたときから見ている当たり前の風景だ。「そもそも魅力があるのかどうか分からない」という声も多かった。そこで、玉田氏と佐藤氏は、世界的に活躍するクリエイターと共に舞鶴の魅力を発掘し、発信していこうと考えた。

 アートディレクションを担当した北川氏は「どんなに優れたロゴマークをデザインしても、機能するかどうかは運用する人次第。デザインは万能ではなく限界がある。デザインの限界を超えるためにも、市民が地元の魅力を再発見できる、心に作用するデザインが必要だと考えた」という。

北川氏がデザインした赤れんが倉庫内の館内サイン。ブランディング機構のメンバーが自ら選んだデザインは、実は北川氏や玉田氏がひそかにイチ押しだったもの。「ブランディングが浸透していることを確信した」(玉田氏)
北川氏がデザインした赤れんが倉庫内の館内サイン。ブランディング機構のメンバーが自ら選んだデザインは、実は北川氏や玉田氏がひそかにイチ押しだったもの。「ブランディングが浸透していることを確信した」(玉田氏)

検討:地元に誇りを持つために

 赤れんが倉庫群は、日本海側の若狭湾に面した場所にある。若狭湾はおだやかな天然の入り江で、日本最古級の船着き場や丸木舟なども出土している。その歴史は縄文時代までさかのぼり、朝鮮半島や中国などとの文化交流のための港でもあったといわれている。

 明治時代からは海軍の軍港として栄え、現在も海上自衛隊の重要拠点だ。舞鶴漁港では、舞鶴カニやブリの他、多くの海の幸が水揚げされる。舞鶴の歴史や食文化をひもとくと、「海」とその地理の関係が非常に密接であることが分かる。北川氏は多岐にわたる舞鶴の魅力を凝縮し、市民が地元に誇りが持てるようなマークのデザインを模索した。

 ロゴについては「舞鶴赤れんがパーク」という名称の伝え方に工夫が必要だと考えた。それは「パーク」という名称から、子供が遊べる遊具などがある公園を想起してしまうからだ。赤れんがパークは、赤れんがの倉庫群がある広場で、倉庫の内部は博物館やカフェ、イベントスペースなどとして活用されている。「イメージを正確に伝えるためにも文字表記では『パーク』をなくしたロゴも検証することにした」と北川氏は言う。

解決策:ロゴの使用ルールはあえて緩く

 ロゴマークのモチーフは「赤れんが倉庫と船」。色は赤と青で、赤れんがと海の色をイメージしたものだ。横長のマークは、赤れんがパークが過去から現在、未来へと続いていくことを表現した。特徴は、市民に地元の魅力について気づきをもたらす仕掛けがあることだ。通常、ロゴマークの色や形は固定的で、使用方法にも規定がある。だが、赤れんがパークのロゴマークはあえて、「使用するメディアや商品に合わせて長さや色のトーンを自由に変えていい」というルールにした。観光協会などロゴマークを使う側には、マニュアルを渡し、マークのコンセプトや意味を伝達しているので、使う側は長さや色を調整する際、自然に、赤れんが倉庫や船、海といった舞鶴にまつわる歴史や文化について考える。

通常、ロゴやマークの色や形は固定化され、使用方法についても規定がある。だが、赤れんがパークのロゴマークは細かい規定をなくし、媒体や商品によってマークの色は「だいたい赤と青」、長さは自由に変更可能だ。ロゴマークを活用する市民が自発的に舞鶴に赤れんが倉庫がある理由や歴史、文化について考える仕掛けとして、北川氏が考案した
通常、ロゴやマークの色や形は固定化され、使用方法についても規定がある。だが、赤れんがパークのロゴマークは細かい規定をなくし、媒体や商品によってマークの色は「だいたい赤と青」、長さは自由に変更可能だ。ロゴマークを活用する市民が自発的に舞鶴に赤れんが倉庫がある理由や歴史、文化について考える仕掛けとして、北川氏が考案した

 そのためにデザインそのものも、赤れんが倉庫や船といったモチーフを具体的にビジュアル化するのではなく、抽象化して表現した。「説明的なデザインではなく、色や形だけで表現したほうが、マークの意味を自然に考えるようになるからだ」と北川氏は言う。

 玉田氏はロゴマークのデザインについて次のように話す。「舞鶴の魅力は多岐にわたり、言葉で説明すると時間がかかる。伝えたいことを視覚化したロゴマークがあることで、コミュニケーションがスムーズになった。実際、ロゴマークができたことでブランディング機構の一体感も増した」。

赤れんがパークの新ロゴマークのプレス発表会で配布したオリジナルの扇子。2本のラインは、赤れんがパークのマークを扇子用にアレンジしたものだ。舞鶴の美しい景観をマークのラインで抽象的に表現したという
赤れんがパークの新ロゴマークのプレス発表会で配布したオリジナルの扇子。2本のラインは、赤れんがパークのマークを扇子用にアレンジしたものだ。舞鶴の美しい景観をマークのラインで抽象的に表現したという
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