ロングセラー商品の多くは、時流に合わせて一部刷新しながら顧客に価値を届け続けている。だが、顧客が刷新を望むとは限らない。2022年3月、森永乳業の「リプトン ミルクティー」は、味を大幅に変更した「リプトン ロイヤルミルクティー」と入れ替わる形で終売した。しかしその直後から、SNSでは「慣れ親しんだ元の味に戻してほしい」という声が多発。森永乳業の問い合わせ窓口に届いた「ご意見」は、なんと同社史上最多の667件にものぼった。同社は悩んだ末に、リニューアル後1年という驚きのスピードで「元の味に戻す」という異例の決断をした。担当者に話を聞いた。

森永乳業は2022年3月28日に「リプトン ミルクティー」(左)の販売を終了し、翌29日より「リプトン ロイヤルミルクティー」(右)を発売した(画像提供/森永乳業)
森永乳業は2022年3月28日に「リプトン ミルクティー」(左)の販売を終了し、翌29日より「リプトン ロイヤルミルクティー」(右)を発売した(画像提供/森永乳業)

 「リニューアルはいらない」(問い合わせNo.293 30代男性)。これは「リプトン ミルクティー」のリニューアル後に、実際に森永乳業に届いた顧客の声だ。

 「リプトン ミルクティー」は、1989年の発売以来、愛されてきたロングセラー商品。他社商品と比較し、低価格でミルクティーが楽しめるというコストパフォーマンスの高さが人気で、特に「学生の定番ドリンク」とされてきた。しかし近年は、少子化の影響で牛乳を除く紙パック飲料全体の市場が縮小。2020年からは新型コロナウイルス禍により通勤・通学や部活動が減少したことで、同商品の売り上げにかなり影響があったという。

売上低下を止めるため、「青春の味」から「大人の味」へ

 こうした背景があり22年3月に、より幅広い顧客層へ訴求するため、発売から34年の中で最も大規模なリニューアルを行った。新商品の「リプトン ロイヤルミルクティー」では、茶葉を5%増量、乳固形分を1.5倍以上にすることで、より本格的な「大人な味わい」を目指したのだ。商品の分類は「紅茶飲料」から「乳飲料」に変更された。

 初速の売り上げは前年以上だった。しかし、これからリピート率を計測していくという段階で、問い合わせ窓口に届く「ご意見」の件数が想定をはるかに超えていたという。内容は「元の味に戻してほしい」「購入をやめてしまった」というものだった。

 「明らかに前代未聞ともいえるほどの数の問い合わせが届いた。多い日は40件を超えるほど。このまま(現行商品を)販売し続けるのか、もしくは元の商品の復活も視野に入れるべきなのか、非常に悩んだ」と、サステナビリティ本部 広報IR部 稲田早希子氏は話す。

 もちろん、安易にリニューアルを行ったわけではない。ミルクティーの売り上げ低下を止めるため、事前の試飲調査なども重ねて慎重に判断し、ロイヤルミルクティーを発売した。「(リニューアル後の)ロイヤルミルクティーも、かなりの工数や思いをかけて作られた商品だったこともあり、元のミルクティーを復活させるか否かは非常に難しい決断だった。開発担当者もおそらくロイヤルミルクティーの販売をやめたくないという気持ちもあったかと思う」。そう営業本部 マーケティング統括部 ビバレッジ事業マーケティング部 柴田珠実氏は当時を振りかえる。

大量の「復活希望」の声、元に戻すべきか

 商品自体は変えずに、現行の商品を認知拡大させるPR施策を行うなどの案も出たという。顧客へのアンケートや商品のリピート率など、あらゆる数値を比較して最善策を探った。

 検討を続けた結果、発売から約半年後に、「リプトン ロイヤルミルクティー」の販売を中止し元の「リプトン ミルクティー」を復活させるという意志決定が成された。森永乳業はどうして、このような驚きのスピードで異例ともいえる決断をしたのか。

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