2023年4月14日公開の劇場版アニメ『名探偵コナン 黒鉄(くろがね)の魚影(サブマリン)』の快進撃が続いている。1997年にスタートした劇場版シリーズは26作目にして過去最高のスタートダッシュを決め、初の100億円の大台突破をなし遂げた。なぜ今、『コナン』に多様な世代が熱狂しているのか、その秘密について、歴史を踏まえてエンタメ社会学者の中山淳雄氏が分析する。
『名探偵コナン 黒鉄の魚影』は公開10日間で58.6億円、1997年来続く劇場版シリーズ26作目にして過去最高の初動であり、『呪術廻戦ゼロ』(137億円)や『ONE PIECE RED』(197億円)に近い初動売上を記録している。これはついに念願となる、コナンシリーズ初の国内興行収入100億円超えを確定づけるものであった(結果、24日間で100億円を突破した)。
『黒鉄』はここ10年の集大成のような傑作である。ゴールでもあり、最大の敵でもある主人公を狙う「黒の組織」の実態に迫る進展がありながら、幾度となくスリルあるバトルが展開され、山場も多い。何より一番人気となる安室・赤井が2度目の共演を果たし、そこにヒロインの蘭や灰原哀も入れた恋愛要素までも含め、とにかく歴代コナン作品の中でも珠玉の作品、視聴後の満足度は過去トップクラスだった。
100億円の突破は初速から予見された。なぜかといえば、初動の1カ月で映画の興行収入はほぼ決まってくるからだ。特にコナンのような長寿作品は、コアファンは確実にその期間内に足を運び、過去作品は最初の1カ月(4週目)でだいたい最終興行収入の8割に到達する。2カ月目以降の売り上げは図1のようにだいたい読めてしまうのだ。10日目で歴代作品の2倍近い売り上げを記録している本作は、既に100億は確定済みで、カウントダウンが始まっていたようなもの。では、なぜ本作はこれほどまでに大成功を収めているのだろうか?
ポストジブリ&ガンダムコラボの2段ロケットからの壮大な仕掛け
コナンはドラえもんとクレヨンしんちゃんと並んで、20年以上もゴールデンウイーク(GW)シーズンごとに毎年上映されてきた(コロナ禍の例外を除き)。この3作品は“国民的アニメ映画”と呼んでも遜色ないシリーズであり、2013年から急速に成長してきた。
理由は明白、巨人スタジオジブリの退場である。『風立ちぬ』(13年)を最後にジブリが作品をつくらなくなったことで、“家族そろって見られる映画”はぽっかりと空位となった。ジブリがつくり上げた「消費習慣」そのものが継承され、3作品はそこから売り上げを伸ばす。
だが、その中でコナンがさらに頭一つ抜けたタイミングがあった。16年だ。これはコラボ戦略で、客層が変わったことが勝因だと考えられる。
『機動戦士ガンダム』でアムロの声を演じた声優、古谷徹がコナンの安室透役に抜てきされ、シャア役の声優、池田秀一がコナンの赤井秀一役となり、この2人が10年ぶりに共演したのが16年の『純黒の悪夢(ナイトメア)』だった。1970年代後半にアニメの一時代を築いたライバルの2人“役”の声優が、まさか違う作品で再びライバルとして共演する……これが大きな注目を集める結果となった。
どうしてそんなことが可能になったのか? これは作者一人の画策だけでなく、テレビアニメも含めた製作チームのファインプレーの歴史でもある。
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