三井不動産は2023年4月19日、食品の製造から販売までを手掛ける新規事業「mitaseru(ミタセル)」を開始すると発表した。有名飲食店と組み、取り寄せ商品を開発し、自社のEC(電子商取引)を中心に販売する。商業施設への来店だけに頼らずに、新たな顧客との接点を生み出すことで、飲食店を支援しようとしている。
ミタセルは「食のプラットフォーム」として、食品の調達や調理人の確保、商品の製造代行までを三井不動産が担う。有名飲食店から店舗ブランドやレシピの提供を受け、専門の料理人が手作りで調理。それを冷凍加工して、取り寄せ商品としてECを中心に販売する。
ミタセルは、同社の事業提案制度「MAG!C(マジック)」から生まれたサービスだ。提案者が事業責任者となり、提案した事業を自ら推進する。これまで、移動販売事業「&MIKKE!(アンドミッケ)」や、移動型の宿泊施設を基軸とした「HUBHUBプロジェクト」などを生み出してきた。今回のミタセルも、事業化を検討する社内審査を経て、テスト段階にこぎつけた。
同社が食のプラットフォームに乗り出したのには理由がある。ミタセルを新規事業として提案したメンバーの1人である、三井不動産ビジネスイノベーション推進部事業グループプロジェクトリーダーの佐々木悠氏は次のように話す。「新型コロナウイルス禍で客足が減り、飲食店が集客に苦しんでいるのを目の当たりにしてきた。顧客が来店するのを待つだけではない、新たな一手を打ち出す必要があると感じた」
そもそも、飲食店をめぐる状況には、課題を感じていた。1つ目が、人手不足だ。飲食・宿泊業の欠員率は全産業に比べて2倍以上高い(農林水産省調べ)。例えば、新たにテイクアウトメニューを開発しようとしても、店舗の運営で精いっぱいで手が回らないといったことは往々にしてある。「コロナ禍を経てデリバリーの次は冷凍食品が新たな収益になるのではないかと気になっているが、人手も限られるため店舗単独では商品開発をする時間がない」という飲食店の声を、佐々木氏は実際に現場でよく聞いていたという。
2つ目に、ビジネスモデルの制約だ。店舗に入る「客席数」には限りがあり、人気店になると予約が取れないという状況にもなる。「店舗」という場所に縛られたビジネスになりがちだ。3つ目が、国内マーケットの縮小だ。人口減少や円安による物価高で原価が高騰し、経営状況は厳しい。一方で、開業へのハードルの低さから過当競争にもなりがちだ。
こうした課題を解決するアプローチとして提案したのが、ミタセルだ。飲食店から提供されたレシピなどを基に、同サービスが製造した食品を冷凍加工して販売することで、消費者が有名店の料理を気軽に自宅でも味わえるようにする。飲食店としては、製造から販売までを同サービスに任せることができる。そのため、EC参入にあたっても人手がかからず、店が遠かったり予約が取れなかったりといった事情でこれまで来店の経験がなかった顧客に新たに店の味を知ってもらえるきっかけになる。
一方で、消費者にも同サービスの利点はあると考えた。家事にかける時間の中でも、料理の割合は大きい。冷凍食品を含む“中食”のニーズは高まるばかりだ。また、仕事や出産、転勤など生活環境の変化から足が遠のいてしまったものの、なじみの飲食店の料理を食べたいといったことはよくあるだろう。
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